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劇団☆新感線『月影花之丞大逆転』いのうえひでのり&古田新太 取材会レポート

新感線らしいオモシロ芝居はパロディが満載

大原薫 演劇ライター


 2021年劇団☆新感線41周年春興行 Yellow/新感線『月影花之丞大逆転』の合同取材会が行われた。

 コロナ禍でも劇団☆新感線を求めてくれるお客様へ笑顔を届けるべく、「密にならない、短い上演時間で、新感線らしい、観たお客様が元気になる作品」をして「Yellow/新感線」を発信。1996年、2003年に上演された『花の紅天狗』で登場した爆発的なテンションのキャラクター、月影花之丞が再登場する『月影花之丞大逆転』を上演する。古田新太、阿部サダヲ、浜中文一、西野七瀬、木野花らが出演し、強烈なキャラクター満載の公演となる。

 取材会には演出のいのうえひでのり、主演の古田新太が出席。「ポップで楽しい新感線が帰ってきたと思っていただけると思う」と見どころを語った。

この時期ならでは、タイトなカンパニーで笑えて楽しい作品を

拡大いのうえひでのり(右)&古田新太=宮川舞子 撮影

――2020年の劇団☆新感線は『偽義経冥界歌』は一部公演が中止となり、『神州無頼街』は2022年へ上演延期となりました。今回、2021年の春興行としてYellow/新感線『月影花之丞大逆転』の開催決定となった経緯を教えてください。

いのうえ:通常の劇団☆新感線の公演はキャスト・スタッフを含めて100人規模で、長期間にわたり上演時間も長い。これは今の状況にはそぐわないということで、去年の夏すぎくらいから企画を練り直しました。この時期ならでは、「できるだけタイトで少人数のカンパニーにし、なおかつ笑えて面白いものを」と急遽立ち上げ、何がいいかという話になったとき、昔上演した『花の紅天狗』の月影先生のスピンオフ的なのはどうだろうという話になりました。これは『ガラスの仮面』をオマージュした芝居だったんですが、木野花さんがやられた月影花之丞というぶっ飛んだキャラクターを中心にして中島(かずき)くんに脚本を書いてもらったんです。

古田:最初に言っておきたいんですが、北島マヤ的な人と姫川亜弓的な人は出てきません!

――ええっ!

古田:(いのうえに向かって)ほら、皆、「ええっ!」って言うでしょ?  絶対『ガラスの仮面』のオマージュシリーズだと思うじゃない?マヤがいてそれに対抗する亜弓さんがいるから『ガラスの仮面』なのであって、月影先生は『ガラかめ』でいうところの最大のスパイス。カレーで例えるならクミンみたいな人であって……今回クミンしか出てこない(笑)。ということを大前提に考えて観に来ていただければ、ある程度楽しめるんじゃないかな。

いのうえ:まあインチキなものの方が作りやすいというね(笑)。

拡大いのうえひでのり=宮川舞子 撮影

――『花の紅天狗』は様々なミュージカルや芝居のパロディなどが入った作品で、「舞台への応援歌」という意味も込められているのでしょうか。

いのうえ:そういうふうに取っていただければ嬉しいですね。広い意味での舞台愛が出ている作品になれば……全然考えてなかったけど(笑)。

――古田さんが楽しみにしているところは?

古田:楽しみはたくさんありますよ。阿部と久しぶりだなあとか、木野さんを守ってあげなければとか。文ちゃん(浜中文一)と一緒にできるのも楽しみ。前に観に行った舞台では、あんなにきれいな顔をして下品なことを平気でやっているというのが印象的で(笑)。今回やるにあたり、一緒の番組に出ている関ジャニ∞にリサーチしたら「いいヤツなんで、なんでもやりますよ」と言っていたので、そいつは楽しみだと(笑)。

あとはオイラと阿部に任せろ、茶化すから

――木野さんに「今回は月影先生メインで」という話をされた時はどんなリアクションをされていましたか?

いのうえ:木野さんが月影先生を演じたときは、当時でもすでに死に物狂いだったんですが、年齢はさらに進んでいるので、「身体を鍛えなきゃ」と。もう既に臨戦態勢ですね。

拡大古田新太=宮川舞子 撮影

――では、マヤでも亜弓さんでもない若手のお二人、浜中さんと西野さんにはどんな役割を担っていただこうと考えていますか?

いのうえ:七瀬ちゃんの役割はこの物語のキーワードになっているところがある。圧倒的にかわいい、彼女が本来持っている輝きがお客様にも説得力を持って伝わるようにしたいと思います。文ちゃんにはきれいな顔をして切れ味のよい変態ぶりというか、その微妙なズレがきちんとお客様にも伝わるようになれば、面白いものになるんじゃないかと思う。

古田:作品としては、西野ちゃんが可愛ければ後半は持つ。文ちゃんが頑張ればストーリー的に持つ。あとはオイラと阿部に任せろ、茶化すから。そしてオイラと阿部で木野さんを支える松葉杖になるから(笑)。若手の二人には稽古場で、自分たちが輝くことを考えて、くらいのことしかアドバイスできないだろうなあって。このご時世だから、稽古が終わってから「一杯呑みにいくか」といって、飲みの場で泣かせたりとかもできないんですよね。本当はその方が絶対楽しい稽古場になるんだけど。だから、なるべく稽古場でガタガタ言おうかなと思っています。阿部は後輩の面倒を見ないから(笑)。

いのうえ:阿部ちゃんは聞かれたら答えるけど、自ら「ここはこうしたらいいよ」と、自らアドバイスするタイプじゃない気がする。

拡大いのうえひでのり=宮川舞子 撮影

――『花の紅天狗』上演当時、当時の印象に残るエピソードはありますか?

いのうえ:木野さんは何より段取り芝居が苦手な人で。

古田:気持ちの人だからね。

いのうえ:舞台の上で「どこに行っちゃうの!?」ってことが多発しまして。新感線は段取りがいっぱいあるのに「あれ、木野さんがいない」ってことが多々あって(笑)。

古田:木野さんは舞台上からハケるとほっとしたりするんですよ(笑)。でもハーって言ってる場合じゃないんです。次は別の舞台袖から出ないといけない。だから、止まってる木野さんの肩を持ってガーっと連れていったら「どこへ連れていくの~!?」と言われて。「どこに連れていくじゃねえよ、今から出番だろ!」ということがありましたね(笑)。

いのうえ:木野さんのテンションは演劇界随一だと思うので。木野さんの輝きを最大限に出せるようにしたい。

古田:若い二人にはいい反面教師になるでしょうね(笑)。ああなっちゃいけないという見本としてね。

拡大古田新太=宮川舞子 撮影

――古田さんは阿部さんとの共演も久しぶりということですが、期待は?

古田:サダヲは売れてないころからの付き合いで、その頃から下北沢界隈じゃショーストッパーと呼ばれてた。何もしなくても客の目を引く存在なんで「お前、ちょっと邪魔だわ」みたいな(笑)。だから一緒に舞台をやっててすごく楽しいです。もっとも信頼する後輩のひとりなので、ただ、人の面倒は見ない(笑)。

全然良い話じゃないのに「面白かった」と思えるものにしたい

――どのような演出を考えていらっしゃいますか。

いのうえ:僕は吉本新喜劇やドリフで育っているので、オモシロ(な作品)をやるときはああいうインチキな感じの書割が出がちなんです。セットを見ると「ああ、あれね」と思うと思います。演出的には、劇団が芝居の稽古をしながらドラマが進行していくので、いろんな芝居のパロディが入ってくる。どういうパロディが入るかはお楽しみということでね。

古田:気をつけなければいけないのは、中島さん、いのうえさんを筆頭としてうちの劇団の年齢って六十代五十代なんですよ。パロディが古い(笑)。二十代には分からないパロディの目白押しです。

いのうえ:あははは。公演が始まる前に「こういうものをやりますよ」とうっすら匂わせるかもしれない。

拡大いのうえひでのり(右)&古田新太=宮川舞子 撮影

――古田さんは新感線のおポンチものの作品に出演するのは結構久しぶりですが、いかがでしょうか。

古田:劇団員は歌のあるおポンチしかやりたくないんですよ。いのうえ歌舞伎に出たいと思っている劇団員は一人もいない(笑)。だから、それはもう全力でみんなぶつかっていくと思うんです。このご時世、劇場に来たお客様に残念な気持ちを与えないように頑張ろうとは思ってます。だから今、いろんな媒体で「面白くないです」と下げてる最中です。

いのうえ:あははは。

古田:そういう気持ちで観に来ると「結構面白かったよ」と思って帰っていただけるんじゃないかなと思って(笑)。

拡大いのうえひでのり(右)&古田新太=宮川舞子 撮影

――最後にメッセージをお願いします。

いのうえ:新感線らしいオモシロ芝居になると思います。この2、3年は純粋に笑いに特化した芝居をやってこなかったので、ポップで楽しい新感線が帰ってきたと思っていただけると思う。楽しんでいただけるように、頑張りたいと思います。

古田:演劇界でオモシロが得意な劇団、ナイロン100℃や大人計画、新感線が公演中止になった2020年があって、最近やっと再開し始めました。演劇界全体が少しでも明るい気持ちになっていただきたいなという気持ちでやっています。ナイロンとか大人みたいなちょっといい話で面白いんじゃなくて、全然よくないのに「ああ、楽しかった、面白かった」「で、何だっけ?」と思うような話を作れたらいいなと思います。

◆公演情報◆
2021年劇団☆新感線41周年春興行 Yellow/新感線『月影花之丞大逆転』
東京:2021年2月26日(金)~4月4日(日) 東京建物Brillia HALL
大阪:2021年4月14日(水)~5月10日(月) オリックス劇場
公式ホームページ
[スタッフ]
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
[出演]
古田新太 阿部サダヲ/浜中文一 西野七瀬
河野まさと 村木よし子 山本カナコ 中谷さとみ 保坂エマ 村木仁/木野花

筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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