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必見! 『花束みたいな恋をした』――恋愛の光と影を絶妙に描く

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

小説、映画、音楽、マンガ……現代/同時代の指標

菅田将暉、有村架純拡大有村架純(右)と菅田将暉 (C)2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 麦と絹は、互いの趣味が“嘘みたいに”一致していた。それが二人の距離を急速に縮めていく。出会いのシーン同様、映画――とりわけラブコメというジャンル――ならではの<偶然>をめぐるご都合主義。といってしまえばそれまでだが、土井演出の巧みなスキルが、それを嘘臭く思わせない。

 また、脚本家・坂元裕二の徹底したリサーチによる、二人の共通の趣味/話題となる小説、映画、演劇、音楽、マンガ、ゲーム、アートの数々が、物語に本当らしさを“入力”する。つまり、それらの実在する個別具体的なものへの言及は、現実の指標(インデックス/参照項)となるゆえ、フィクションのリアリティを強めるわけだ。

 その点で本作は、現代/同時代の若者の趣味嗜好やライフスタイルを反映するトレンディー・ドラマではあるが、二人の好むカルチャー・アイテムは村上春樹や又吉直樹や乃木坂46やアナ雪などのメインストリームではなく、かといって、沼正三、アラン・ロブ=グリエ、フィル・スペクター、エドガー・G・ウルマーといったマニアックなものでもなく、今村夏子、柴崎友香、いしいしんじなどの、いわばマイナー・メジャー系だ(ただし“嘘みたいな”趣味の一致といっても、時に二人は相手に合わせようとして、小さな(文字どおりの)嘘をいくつか交ぜ、関心のないものにも関心のあるふりをする。身につまされるような、芸の細かいディテールだ)。

 ちなみに2017年に二人が渋谷のミニシアター(ユーロスペース)で観る映画、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督『希望のかなた』に絹は心動かされるが、麦はピンとこない(二人の話題に『カンブリア宮殿』の村上龍、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(エドワード・ヤン監督、台湾、1991年、大傑作!)が出てきたときは一驚した)。

 現代/同時代の指標といえば、ファミレスでテーブルを挟んで向かい合っている麦と絹が、スマホに映った互いの画像を介して告白しあう(!)場面や、麦がGoogleストリートビューに

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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