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【公演評】梅田芸術劇場『ポーの一族』、大千穐楽のライブ配信&ライブビューイングを実施

バンパネラと人間たちとの相克を描く、重厚で神秘的な舞台

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 多くの公演でライブ配信が実施されるようになったことは、コロナ禍の演劇界における不幸中の幸いだ。感染への不安、仕事や家庭の事情から、現在なかなか劇場に足を運ぶことができない人にとっては舞台に触れられる貴重な機会である。加えて「遠方での公演が見られる」「価格が安いので、気軽に見てみようと思える」さらには「自宅にいながら見られるから気楽」など、広く一般の演劇ファンにとってもありがたいものとなっているのだ。

 最近は、同じ作品を劇場とライブ配信の両方で見比べるのも面白いと思うようになった。もちろん、劇場空間で味わえるあの臨場感は何にも代え難いものだが、ライブ配信で大きく映し出される演者の表情にハッとさせられることもある。

 また、「舞台上のどこを切り取って見るか」の自由があることは生で舞台を観る人ならではの特権だが、裏を返せばライブ配信においては最大公約数的なカメラワークのおかげで、自分では絶対に見なかった方向に目を向けさせられることもあり、思わぬ発見があったりもする。

 梅田芸術劇場『ポーの一族』も、東京公演での生の舞台と大阪公演のライブ配信、両方を見ることができた。2018年に上演されたタカラヅカ版も思い起こしつつ、舞台とライブ配信の2度の観劇から感じ取った作品の魅力についてお伝えしてみたい。

タカラヅカ版と同じ展開なのに違う印象

拡大ミュージカル『ポーの一族』公演から=岸隆子(Studio Elenish)撮影

 この舞台の原作は、言わずと知れた萩尾望都の人気漫画だ。孤児の兄妹であるエドガーとメリーベルはバンパネラ(この作品における吸血鬼の呼称)の一族に迎え入れられる。だが、あるきっかけからメリーベルを失ったエドガーは、学友として出会ったアランを永遠の旅のパートナーとするため一族に誘う。

 脚本・演出を手がけたのが、もともと原作漫画の大ファンで舞台化を悲願としていた小池修一郎だ。原作漫画は1話完結の短編が続いていく形式で、時代を行きつ戻りつしながら進むが、舞台ではそれが時系列に組み替えられる。原作の「ポーの一族」「メリーベルと銀のばら」「小鳥の巣」などを組み合わせつつ、一部オリジナルのエピソードが組み込まれた物語が展開する。

 梅田芸術劇場版のストーリー展開もタカラヅカ版をほぼ踏襲する。にもかかわらず、かなり違う印象を受けたのが興味深かった。

 タカラヅカ版を観た時は、幻想的で美しい世界を漂う感覚だったが、今回はバンパネラと人間たちとの生々しい相克のドラマだった。あるいは、タカラヅカ版は2次元の世界の3次元化であるのに対し、梅田芸術劇場版は原作の世界をリアルに舞台化したともいえるかもしれない。この違いは、いわば『エリザベート』における東宝版とタカラヅカ版の違いに近い気がした。

 その違いには、松井るみが手がけた舞台装置も一役買っているようだ。タカラヅカ版のように映像を多用することなく、全編を通じて重厚で神秘的な雰囲気が漂っていた。

異次元の存在感を放つ明日海エドガー

拡大ミュージカル『ポーの一族』公演から=岸隆子(Studio Elenish)撮影

 この世界観の中で、キャストもそれぞれタカラヅカ版とは一味違う役作りを模索していた。

 まず、退団後の初舞台として再びエドガー役に挑んだ明日海りお。ひとことでいうと「永遠の14歳の美少年」にしかわからぬ心の闇がさらに深まった印象だ。人間世界に降臨したエドガーだけが異次元の存在感を放ち、その孤独がくっきりと浮かび上がっていた。

 これは明日海エドガーだけが、そもそもが非現実的存在である「男役」であることも影響していそうだが、二度目の挑戦でこの役をさらに掘り下げた賜物でもあるのだろう。この世のものならぬ儚さだけでなく、永い時をさまよってきた魂の強さも感じさせるエドガーだった。

 自ら手を挙げてこの役に挑んだという千葉雄大のアラン。タカラヅカ版で柚香光が演じたアランはどこまでも頑なで、触ると手を切ってしまう剃刀のような危うさを感じたが、千葉アランはリアルな14歳の少年が持つ繊細さや不安定さを感じさせつつも、どこか人懐っこくて守ってあげたくなるようだった。

◆公演情報◆
拡大ミュージカル『ポーの一族』
ミュージカル『ポーの一族』
2021年2月23日(火祝)~2月28日(日) 御園座
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:萩尾望都『ポーの一族』(小学館「フラワーコミックス」刊)
脚本・演出:小池修一郎
[出演]
明日海りお/千葉雄大
小西遼生 中村橋之助 夢咲ねね 綺咲愛里/福井晶一 涼風真世 ほか

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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