いよいよ、日本でも2月から医療従事者向けの新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった。一般の人びとにとっても、自分はワクチンを接種するかしないかを決断する時期が迫ってきているといえる。
そうしたなかで、日本では新型コロナウイルスのワクチン接種について、慎重な意見が多いという世論調査の結果が次々と出ている。たとえば、2月14日に毎日新聞が報道した世論調査の結果では、「すぐに接種を受ける」との回答は39%、「急がずに様子を見る」は52%だった。「接種は受けない」が6%であり、「わからない」は3%だった。
*「毎日新聞世論調査 新型コロナ ワクチン「期待する」81% 内閣支持上昇38%」
この結果からは、実際に接種が可能になったとしても、約半数の人はすぐには接種をするかわからず、今後の状況次第で接種の決断が変化してくる可能性が予測できる。
こうした世論調査の結果を受け、ワクチン接種がスタートしても、実際に接種する人の数が低くとどまり、集団免疫が獲得されないことを憂慮する専門家の意見もしばしば見かける(ただ、新型コロナウイルスに関して、集団免疫を獲得することが本当に効果的なのかということ自体、まだはっきりとはわかっていないようだが)。ごくごく大雑把にいえば、ワクチン接種を広く進めたい行政や医療従事者の考えと、ワクチンに対して慎重な構えをみせる人びととの間に溝があるようにみえる。

新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける看護師=2021年2月18日、広島県大竹市の国立病院機構広島西医療センター
私は、医療人類学という(おそらく日本ではほとんどの人が知らないであろう)分野を専門としており、おもに、医師と患者の間の治療をめぐるすれ違いについて調査・研究を行ってきた。その立場から、なぜこれだけ多くの人びとが今回のワクチン接種について慎重な態度を取っているのか、その理由について考察してみたい。