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『推し、燃ゆ』の芥川賞受賞は、やはり「今」だったのだ

丹野未雪 編集者、ライター

推しを「解釈」することが唯一の救い

綿矢りささん2007年拡大史上最年少(19歳)で芥川賞を受賞した綿矢りさ=2007年

 ところで、宇佐見は3番目に若い年齢で芥川賞を受賞したと報道されたが、そのもっとも若い受賞者である綿矢りさは、受賞第1作『夢を与える』(2007年)で、アイドルを主人公に描いている。スキャンダルの嵐に晒され落ちていくチャイドル(子役)である主人公・夕子の出生前(!)からたっぷりと、観られる側の地獄を差し出してみたのだった。では、観る側には観客として限りない愉楽だけが約束されているのだろうか?

 「尊い」「しんどい」けれども、アイドルを推すことから離れられない観る側の地獄と救済(といってみたが、果たして救済なのか)を描いている『推し、燃ゆ』を冒頭から辿り直してみよう。

 「推しが燃えた。」という出落ちのような一文ではじまる本作は、高校生のあかりが主人公だ。教室よりも長い時間を過ごす保健室で病院への受診を勧められ、「ふたつほど診断名がつい」ているあかりは、家族や学校、友人、アルバイト先のどのひとつともうまくやっていけない。

 リアルには所在ないあかりが唯一認められるのは、「推し」である「まざま座」の上野真幸に関して発信しているブログやSNSといったデジタルの場だ。

あたしがここでは落ち着いたしっかり者というイメージで通っているように、もしかするとみんな実体は少しずつ違っているのかもしれない。それでも半分フィクションの自分でかかわる世界は優しかった。

 優しい世界にいたいがためにあかりは「推し」を愛するわけではない。

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筆者

丹野未雪

丹野未雪(たんの・みゆき) 編集者、ライター

1975年、宮城県生まれ。ほとんど非正規雇用で出版業界を転々と渡り歩く。おもに文芸、音楽、社会の分野で、雑誌や書籍の編集、執筆、構成にたずさわる。著書に『あたらしい無職』(タバブックス)、編集した主な書籍に、小林カツ代著『小林カツ代の日常茶飯 食の思想』(河出書房新社)、高橋純子著『仕方ない帝国』(河出書房新社)など。趣味は音楽家のツアーについていくこと。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです