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伊礼彼方&河内大和インタビュー/上

劇場に入った瞬間『ダム・ウェイター』の世界観は始まっている

橘涼香 演劇ライター


 劇作家ハロルド・ピンターが初期に発表した不条理劇の傑作『ダム・ウェイター』(料理昇降機)が、3月16日~28日、下北沢・小劇場楽園で上演される。

 地下室で仕事の指示を待っている二人の殺し屋ベンとガスが、突然動き出したダム・ウェイターの中に入っていた料理のオーダーが書かれた紙切れによって、困惑し混乱していく様が描かれた作品は、この世界を体感するひとり一人によって、エンディングの受け止め方までもが変わってくるだろう、奥深さを秘めている。

 そんな二人芝居に挑むのが伊礼彼方と河内大和。大作ミュージカルが上演される大劇場を主戦場としている伊礼と、数多くのシェイクスピア作品で主演を務め、主に小劇場で活動を続けている河内。それぞれ同じ演劇界の異なるジャンルで活躍している二人が、劇場への階段を下りるところから既に作品世界が始まっている濃密な空間で、如何にそれぞれの個性を発揮させ、作品世界を輝かせるのか。小劇場楽園で何を上演するのが最も相応しいのか? という発想で進んでいった企画を含めて、舞台に懸ける想いを聞いた。

ここで再会できたのは運命かなと

拡大伊礼彼方(右)&河内大和=森好弘 撮影

──まず、この企画の出発点からお聞きしたいのですが。

伊礼:このコロナ禍で色々と仕事が中止になった方達は本当に多いと思うんですが、河内さんもそうでしたよね?

河内:うん、そうだね。

伊礼:そんな流れの中で、3月半ばに下北沢・小劇場楽園が空いたという話を伺って。楽園が使えるなら、せっかくだから何かやりたいなと思ったんです。もちろん、まだ何も決まっていないし、僕自身のスケジュールも流動的だったんですけれども、僕は人とセッションするのが好きなので、楽園だったら二人芝居がいいんじゃないか。誰かいないかなと心の中で探していた時に、全く別件で河内さんから連絡があって!

河内:ミュージカルのオーディションがあったんですよ。僕はこれまで本格的なミュージカルってやったことがなくて。もちろんミュージカルのオーディションですから歌も歌わないといけないと。でも僕はまず譜面も読めないので、これは誰かに教わらないとなと思って、頼める人はいないかとSNSを見ていたら「あ、いた!」と(笑)。それで伊礼君に連絡したら「いいですよ!」と言ってくれたんです。その最初のレッスンのあとだったよね?帰り道に「楽園で一緒に何かやりませんか?」と話してくれて。

伊礼:そうです、そうです。2時間くらいレッスンをしている間に「あーやっぱり河内さんいいなぁ」と思って。知り合ってから、結構長い間疎遠になっていたのに、ここで再会できたのも何かの運命かな?と。

河内:疎遠って言うか!?(笑)

伊礼:あ、いや、だって、しばらく連絡取り合っていなかったじゃないですか!(笑)なのに、この絶妙なタイミングでまた出会えたのはきっと意味があると思って。「河内さんこの時期スケジュール空いてますか?」って訊いたんです。そうしたら空いているって言うから、これは!という気持ちに僕もグッと傾いて。でもその時点では作品は決まっていなかったのですが、楽園が使える、河内さんのスケジュールが空いているということがわかったので、じゃあ何をする?という話を、本多劇場グループの方々やマネージャーと整理しはじめました。色々な候補が出たのですが、その中からハロルド・ピンターの『ダム・ウェイター』が浮上したので、戯曲を読んでみたら訳がわからない!(笑)これはいい!と思って!

河内:おい!(笑)

伊礼:いや、楽園の空間でやらせてもらうんなら、コメディよりも不条理劇がいいなとは思っていたんですよ!僕は大劇場の作品をやらせていただくことが多いですし、わかりやすいものが多いので、180度違うものをやりたいという気持ちがあって、それが河内さんとなら叶えられるんじゃないかなと。素晴らしい役者さんですし、もうひとつには、僕は河内さんが人間の役をやっているのを見たことがなくて。

河内:そうだったか!?(爆笑)

伊礼:いつもゲテモノとか…

河内:ゲテモノってなんだよ!

伊礼:え?だって、化け物とかね(笑)

拡大伊礼彼方(右)&河内大和=森好弘 撮影

河内:伊礼君との最初の出会いがシェイクスピアの『テンペスト』で、僕がキャリバンをやっていたんです。半分人間で半分魚というような役柄で、当時僕はスキンヘッドで、もやしみたいな(笑)カツラをつけて、ずっと地を這っている役ではあったんですけど。でもそれくらいじゃない?怪物をやっていたのって。

伊礼:シェイクスピア作品にたくさん出られていることもあるんですけど、ホームページやツィッターを見ると何しろキャラが濃いから(笑)、河内さんが普通の人をやったらどうなるんだろう?が、僕の中では未知数で。それも今回の楽しみのひとつです。

河内:僕も『テンペスト』で伊礼君と初めて一緒に芝居をした時から「面白い奴だなぁ」と凄く思ってたよ! こいつとはいつか一緒に何かやるだろうな、とずっと思いながら7、8年経っちゃって。僕もちょうど舞台がポカっとなくなって、さっき話したような経緯で伊礼君に連絡して、再会したその日にスケジュールの話になったので、その時点では何も確定ではなかったんですけれども、「面白くなりそうだ」という予感は既にありました。でも本は決まっていませんでしたから、二人共熱く無茶苦茶喋る芝居か、二人の存在だけで見せられるようなほぼ無言劇か、どちらかが良いなと思いながら探していたら、この戯曲と出会って。でも最初は二人共「よし、これだ!」となった訳じゃないよね?

伊礼:ならなかったです。どうなんだろう? から入りましたよね。

河内:そうそう。でも読み込んでいくにつれて、どんどん、これならハマるなという気持ちが強まっていって。今となっては本当にこの本にして良かったなと思っています。

◆公演情報◆
本多劇場グループnext『ダム・ウェイター』
THE DUMB WAITER by Harold Pinter
2021年3月16日(火)~3月28日(日) 下北沢・小劇場楽園
公式サイト
[スタッフ]
原作:ハロルド・ピンター
翻訳:喜志哲雄
演出:大澤遊
[出演]
伊礼彼方 河内大和
 
〈伊礼彼方プロフィル〉
 1982年、沖縄出身の父とチリ出身の母との間に生まれ、幼少期をアルゼンチンで過ごす。中学生の頃より音楽活動を始め、2006年『テニスの王子様』で舞台デビュー。2008年『エリザベート』ルドルフ役に抜擢され、以降、ジャンルを問わず多数のミュージカル、ストレートプレイ等で多彩な役柄を演じ幅広く活躍中。主な出演作に、舞台『レ・ミゼラブル』『ジャージー・ボーイズ』など。2019年には藤井隆プロデュースで初のミュージカル・カバー・アルバム「Elegante」をリリース。2021年5月より『レ・ミゼラブル』(ジャベール役)帝国劇場他出演予定。
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〈河内大和プロフィル〉
 1978年山口県出身。2004年以降、新潟にて「能楽堂シェイクスピアシリーズ」の中核を担う。退団後上京し、13年に劇団「G.Garage」を旗揚げし『RICHARD III MISTER / BLANK』や『Waltz For # Macbeth』、「朗毒会」「即興狂読」シリーズの演出も手掛けている。これまでにシェイクスピア作品の主演を多数務め、現在はフリーとして舞台を中心に活躍中。主な出演舞台は、『カラマーゾフの兄弟』(小野寺修二演出)『ヴェローナの二紳士』(蜷川幸雄演出)、『春のめざめ』(白井晃演出)、『ヘンリー八世』(吉田鋼太郎演出)、『赤鬼』(野田秀樹演出)など。
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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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