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伊礼彼方&河内大和インタビュー/下

細胞が開いていく舞台観劇ならではの感覚を届けたい

橘涼香 演劇ライター


伊礼彼方&河内大和インタビュー/上

舞台と客席が至近距離にある密度の濃さ

──とても濃密な体験になること間違いなしと思えるお芝居ですが、キャパ50%での上演と伺っていて、40席での上演になるんですよね?

伊礼:そうなんです。そもそも80席でもとても小さな客席なんですが、それを半分の40席で上演するので、一層プレミア感はありますね。

──お客様が王侯貴族みたいですよね。40人の為にお二人が演じて下さるというのは。

河内:確かに!(笑)

伊礼:お抱え劇団ですね!(笑)

拡大伊礼彼方(右)&河内大和=森好弘 撮影

──しかも先ほど最後列に座らせていただいたんですけれど、そこからでも帝劇の最前列より絶対に近いなと思いました。

伊礼:そうでしょう? 皆さんオーケストラピットに座っている感覚です!

河内:むちゃくちゃ近いよね。

──やはりこれだけお客様との距離が近いというのは、大劇場とは違う感覚になりますか?

伊礼:僕が今までに出させていただいた劇場で一番小さいところが赤坂REDTHEATERだったんですが、舞台の一番前で語っていた時に、お客様のお腹が鳴った音が聞こえたことがあって! ここまでお客様と近いのか!という実感がそこで一気に湧いて、緊張感が高まりましたし、お客様もやっぱりそこまで近くに役者がいることで緊張していらしたと思います。そのお互いの高揚というか、ドキドキした気持ちが相乗効果になって、より興奮させてくれるので、それが小劇場の良さでもあるかな?と。河内さんは小劇場への出演が多いですけど、どうですか?

河内:僕はずっと小劇場でやっていて、新潟にいた頃にはもっと少ない人数のところでもやっていましたが、本番中のお客様との交流、その密度が濃いので、やっぱりエキサイトしますね。今回の作品などは戯曲が緻密に作られていますから、物語そのものが変化していくことはないですけれども、それでもその日、その日のお客様によって、その空間で交わされる会話の空気は一回ごとに違ってくるでしょうし。

──これぞライブの醍醐味ですね。

河内:そうですね!それを感じていただけると思います。

お互いを知り尽くしていないことが作品の強度を増す

拡大伊礼彼方=森好弘 撮影

──特に今回の役柄が、お二人へのあてがきのようにピッタリだと皆さんがおっしゃっていると伺いましたが、ご本人もそう感じられますか?

伊礼:確かに僕はガスみたいに何も考えていないところがあります!

河内:いや、色々考えているじゃない!(笑)

伊礼:考えてますけど、興味がある部分とない部分が違い過ぎるんです!(笑)。興味のあるところだと、本当に考え抜きますし、保険に保険をかけて、石橋を叩いて、叩いて、それこそ5年くらい叩いてから渡る(笑)という感じなんですが、一度興味が湧かないこととなると、もう本当に何も考えずに道路に飛び出す危険人物です(笑)。まぁ、僕のそういう部分を河内さんはあまり知らないと思うけど。

河内:うん、でもさ、ガスって何も考えていないように見せて、ものすごく考えていない?むしろわざとやっているんじゃないか?と思えるくらいで。そういう複雑な部分と、僕が伊礼君のことを知り尽くしてはいないという状況がすごく良いなと思えていて。たぶん本番中にも、いま伊礼君は何を考えているんだろう?をすごく考えると思うんです。それは作品の強度を増すし、様々なものを加味するだろうと感じています。ベンってとても臆病な人だという気がしているんですが、僕自身もめちゃくちゃ臆病ですし、本番前には震えます。

 先日、下北沢のスズナリでコロナ禍のあと久しぶりに一人舞台に立った時も、それは緊張しましたが、自分もそうだからこそ正直な気持ちを悟られまいとしたり、そう思うあまりにおちゃらけたりするベンの性格が凄く好きですね。まだ全てを読み解けてはいないと思うんですけれども、殺し屋稼業の人なのに憎めない感じもいいなぁと。

伊礼:ガスはそこからすると、ふにゃふにゃですけれども、僕自身も型がない方なんです。自由型と言うのか、自分の型を敢えて固めずにどこにでも飛び込んでいく。一緒にやる方々にリスペクトは持ちつつ、染まりはしないという気持ちでやってきたので、きっちりと土台を固めている河内さんとの違いも、この芝居の中で楽しんでいただけたらいいなと思っています。

◆公演情報◆
本多劇場グループnext『ダム・ウェイター』
THE DUMB WAITER by Harold Pinter
2021年3月16日(火)~3月28日(日) 下北沢・小劇場楽園
公式サイト
[スタッフ]
原作:ハロルド・ピンター
翻訳:喜志哲雄
演出:大澤遊
[出演]
伊礼彼方 河内大和
 
〈伊礼彼方プロフィル〉
 1982年、沖縄出身の父とチリ出身の母との間に生まれ、幼少期をアルゼンチンで過ごす。中学生の頃より音楽活動を始め、2006年『テニスの王子様』で舞台デビュー。2008年『エリザベート』ルドルフ役に抜擢され、以降、ジャンルを問わず多数のミュージカル、ストレートプレイ等で多彩な役柄を演じ幅広く活躍中。主な出演作に、舞台『レ・ミゼラブル』『ジャージー・ボーイズ』など。2019年には藤井隆プロデュースで初のミュージカル・カバー・アルバム「Elegante」をリリース。2021年5月より『レ・ミゼラブル』(ジャベール役)帝国劇場他出演予定。
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〈河内大和プロフィル〉
 1978年山口県出身。2004年以降、新潟にて「能楽堂シェイクスピアシリーズ」の中核を担う。退団後上京し、13年に劇団「G.Garage」を旗揚げし『RICHARD III MISTER / BLANK』や『Waltz For # Macbeth』、「朗毒会」「即興狂読」シリーズの演出も手掛けている。これまでにシェイクスピア作品の主演を多数務め、現在はフリーとして舞台を中心に活躍中。主な出演舞台は、『カラマーゾフの兄弟』(小野寺修二演出)『ヴェローナの二紳士』(蜷川幸雄演出)、『春のめざめ』(白井晃演出)、『ヘンリー八世』(吉田鋼太郎演出)、『赤鬼』(野田秀樹演出)など。
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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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