市瀬英俊(いちのせ・ひでとし) スポーツライター
1963年、東京都生まれ。千葉大学法経学部卒。「週刊プロレス」全日本プロレス担当記者等を経て、現在スポーツライター。著書に『夜の虹を架ける――四天王プロレス「リングに捧げた過剰な純真」』(双葉社)、『ワールドプロレスリングの時代――金曜夜8時のワンダーランド』(朝日新聞出版)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
[下]「僕は何時も思って居ます。貴女と僕とは身分が違いすぎる」
ふたりの出会いは1955年3月にまでさかのぼる。高校を2年で中退しプロ野球・読売巨人軍の一員となった馬場は、新人投手として初の春季キャンプに臨んでいた。
まずは宮崎県での1次キャンプ。続いて兵庫県明石市に移動し2次キャンプ。一方、同市内に暮らす当時15歳の元子は父に連れられ球場へと赴いた。すると、ひときわ背の高い選手が元子の目に留まった。
「お父さん、見て見て! あの人、なんだかまだ子どもみたいだけど、ひとりだけずば抜けて大きいね」
巨人軍入団時点で190センチを超える身長を誇っていた「あの人」。名前が馬場正平であることを元子は父から教えられた。
石油会社を経営する元子の父・伊藤悌(やすし)は巨人軍の後援者として、球団にも顔が利く立場にあった。キャンプ中には監督やコーチ、数人の選手を自宅に招待して激励会を開催する。それは恒例行事になっていた。
そして、この年の激励会には馬場も招くことになった。「わたし、あの大きな人に会いたい!」。父にリクエストしたのは元子だった。
先輩選手とともに伊藤家にやってきた馬場。悌以下、家族一同は最上級のもてなしを心がけたが、一点だけほころびがあった。事前に
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