少数の人間が密室でことを決める「再封建化」
2021年03月10日
菅総理の息子らによる総務省幹部への接待という報道のほとぼりも冷めないうちに、それまで「他から接待を受けたことはない」という趣旨の発言をしていた谷脇康彦総務審議官その他がNTTから数度にわたって高額の接待を受けていたとの報道が流れた。黒川弘務東京高検検事長の麻雀事件もそうだったが、まことに日本を守ってくれるのは自衛隊でもなんでもなく『週刊文春』としか言いようがないが、それはともかくとして、辞職した内閣広報官山田真貴子氏もNTTの接待を受けていたそうだ。
谷脇氏の場合は、NTTの社長も同席していたとのこと。完全な嘘つき集団だ。記憶力だけが自慢の官僚たちが突然健忘症に感染したようだ。健忘症はコロナよりも感染力が強い。高額接待を受けておいて、「利害関係者との認識はなかった」と嘘に嘘を重ねるいつものパターンも感染力の強さを誇っている。
こうなると単に菅総理とその長男のどこか田舎芝居めいた接待政治そして門閥政治というだけではないようだ。もっと大きく、許認可官庁と関係業界との癒着という構造的な側面こそが問題だ。個性的な風采の長男君の挙動不審は、検察が動いて当然のこととはいえ、あくまでこのネットワークのひとつのエピソードにすぎないのかもしれない。
実は筆者には辞職に追い込まれた山田真貴子氏や同じく左遷された秋本芳徳情報流通行政局長氏などとほぼ似た仕事をしていたと思われる(旧)郵政官僚の叔父がいた。広義では彼らのはるかに遠い前任者だ。この叔父は、電波の割り当てを主たるお役目とする、かつては電波監理局という名称の本省の局長だった。のちには通信関係の国連組織の官僚にもなった。大学で電波工学を専攻したいわゆる技術系の高級官僚だ。
ドイツに滞在していた筆者が国連官僚をしていた叔父をジュネーブに尋ねたときは、土地ゆかりのヴォルテールの話をしあった。「ヴォルテールばりのユーモアとちゃかしは批判として効くね」という叔父の言葉は今でも拳々服膺(けんけんふくよう)している。
T叔父さんは、内村鑑三系の熱心なクリスチャンで、かつ大変な読書家だった。1960年代、課長補佐か課長の頃に住んでいた、今から見ればみすぼらしい木造の、ダイニングキッチン以外には二間しかない公務員宿舎の玄関脇の大きな本棚には内村鑑三全集が鎮座していた。ページを括るといろいろと書き込みもあった。大学に近いので、泊めてもらったことがあるが、本棚にロングフェローの長詩『哀詩 エヴァンジェリン』(岩波文庫)を見つけて、一晩で読んだ記憶は今でも鮮烈だ。申し訳ないが、内村鑑三には興味が湧かなかった。
物静かで、酒はほとんど飲まず、暇さえあれば本を読んでいる、いつも微笑みをたたえている方だった。生意気盛りの筆者が「大企業なんていうのは、掏摸(スリ)、強盗、かっぱらいといくらも変わらない」(この意見は今でも大きな変更はない)と言っても、ニコニコ笑って聞いていた。社交好きで口から先に生まれてきた、とよく言われた華やかな容姿の叔母との対照が親戚のあいだでもいつも話題だった。
時々遊びに行ったが、夕方はいつも帰っておられた。局長になってからは吉祥寺の、これは大きな庭つきの立派な日本家屋の宿舎だったが、帰宅は早かった。ようするに接待など行かない堅物だった。まだまだ日本も貧しい時代だったから、接待文化もそれほどではなかったのかもしれないが。
少しプライバシーに入りすぎたかもしれないが、ここからが本題だ。
T叔父さんがまだ中堅官僚のころに郵政大臣だった田中角栄のやり口について、だいぶたってから、親戚の法事のあとの席で物静かに話してくれたことがある。田中角栄が郵政大臣だったのは、1957年7月から翌年の6月までだ。
国際会議に出張するために大臣室に挨拶に行ったところ、角栄大臣は「ちょっとこちらへ来てくれ」と人のいない別室へ招いて、
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