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宮城県雄勝町の巨大防潮堤にみる「復興」への違和感

「10年」という区切りがどこか勝手で空疎に響く

丹野未雪 編集者、ライター

海をなりわいに生きる人たちの身体感覚と知性

たくさんのワカメを積んで港に戻る漁師たち=6月7日午前、宮城県石巻市雄勝町船越沖 2011年6月拡大震災後、漁を再開し、ワカメを積んで港に戻る漁師たち=2011年6月、宮城県石巻市雄勝町船越沖
 雄勝湾はホタテやカキ、ウニ、ホヤ、ギンザケなどを主力とする養殖漁場だ。お気づきかもしれないが、ウニが獲れるということは、ウニの食物である海藻にも恵まれているということだ。

 雄勝を産地とする雄勝船越わかめがわたしは大好きだ。香りと肉厚な歯ごたえは代わりとなるものがなく、震災後の数年間、三陸の海産物がいかに美味いものだったのかをしみじみ感じた。この海でなければなせないことがあるのだと、今さらながら思った。

 海をなりわいに生きる人は、海から目をそらしはしない。天候と海の様子をじかに感じて作業をどうすすめていくか判断する。そうして導き出す行程も行動も、言葉にして第三者に説明しきれないものだ。職人と同じように、肉体を使って身につけた技術は言語化しにくいけれど、知性の裏打ちがはっきりとある。だから、恵みも不漁も災害も内包する海を直視するだけの力量をもっている。

 漁労は素朴な(しかし厳しい)肉体労働に見えるかもしれないが、収穫にいたるまでいかに多くの情報の積み重ねが必要か、ほとんどの人は知らないだろう。

 海面下の地形、潮流、潮の干満、日々刻々と移り変わる天候や気温、風向きといった複雑な自然の事象を把握して数年〜数十年、身をもって得た経験と現在の気象情報やデータを照らし合わせながら海産物の生育状況や収穫の頃合いをはかる。

 水温が上昇すれば潮流が変わりエサになるプランクトンが潮の流れに乗ってやってこないかもしれない。牡蠣や海苔の養殖網を投入するタイミングはいつがベストか。快晴でも強風であれば海に出ることはできないが、雲の流れからして数時間、風は凪いでいるかもしれない。

 見るもの、聞くもの、肌で感じる空気、風向き、匂い。身体の感覚を軸にデータをかけあわせて自然現象の徴候を読み解くことで、海のなりわいは成立している。

 祖父の朝は早かった。

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筆者

丹野未雪

丹野未雪(たんの・みゆき) 編集者、ライター

1975年、宮城県生まれ。ほとんど非正規雇用で出版業界を転々と渡り歩く。おもに文芸、音楽、社会の分野で、雑誌や書籍の編集、執筆、構成にたずさわる。著書に『あたらしい無職』(タバブックス)、編集した主な書籍に、小林カツ代著『小林カツ代の日常茶飯 食の思想』(河出書房新社)、高橋純子著『仕方ない帝国』(河出書房新社)など。趣味は音楽家のツアーについていくこと。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです