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ウィーンの大人になれない二人のピーター・パン

【7】「第三の男」の原作を読んでみた

中川文人 作家

居酒屋で出会った二人

 『第三の男』の音楽を作り、演奏しているのはウィーンのチター奏者、アントン・カラスである。

拡大アントン・カラス=1962年3月3日
 チターはドイツ、オーストリアなどのドイツ語圏に伝わる民族楽器である。形は日本の琴に似ているが、その音色はどこか哀愁を帯びている。アントン・カラスはそんなチターを持ってホイリゲ(居酒屋のような飲み屋)に現れるチター弾きで、自分のレパートリーを披露するだけでなく、客のリクエストにもこたえ、客の歌の伴奏もするというから、昭和の飲み屋街にいたギターの流しのような存在だったのだろう。

 アントン・カラスの栄光と挫折を描いた『滅びのチター師 「第三の男」とアントン・カラス』(軍司貞則、文春文庫)という本によると、キャロル・リードとアントン・カラスの出会いは偶然だったようだ。

 1948年、『第三の男』の撮影準備でウィーンに来ていたキャロル・リードは、ある日、地元のプロデューサーに招かれ、ホイリゲを訪れる。地元の俳優を紹介してもらうためだったが、リードの目は俳優ではなく、チターを弾くカラスに釘付けになる。

 リードはカラスとの出会いを、のちにこう語っている。

 私は瞬間的に思った。これから撮る「第三の男」の映画音楽にこの楽器と男を
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筆者

中川文人

中川文人(なかがわ・ふみと) 作家

1964年生まれ。法政大学中退、レニングラード大学中退。著書に『身近な人に「へぇー」と言わせる意外な話1000』(朝日文庫)、『地獄誕生の物語』(以文社)、『ポスト学生運動史』(彩流社)など。本の情報サイト『好書好日』で「ツァラトゥストラの編集会議」の構成担当。総合誌『情況』にてハードボイルド小説「黒ヘル戦記」を連載中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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