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福岡5歳児餓死事件に思う~多様で巧みな女性たちの支配と闘争モデルの家族

信田さよ子 公認心理師・臨床心理士、原宿カウンセリングセンター所長

 2021年3月2日、5歳の男児を餓死させたとして母親(I)とその友人(A)が保護責任者遺棄致死の疑いで逮捕された福岡の事件は、少しずつ全容が明らかになっている。発生から10日過ぎても相変わらずひとびとの関心を惹き続けているのは、事件による残酷さだけでなくAによるIの支配をどうとらえたらいいのかという謎をはらんでいるからだろう。

 洗脳とかマインドコントロールという言葉でくくるのは簡単だが、その基本的仕組みは私たちの日常生活でもよく見受けられることをお伝えしたい。悲惨なひとりの虐待死事件の背後には、かろうじて生きているために表面化しないだけで、紙一重の状況に置かれている子どもがその数倍、数十倍存在していることを忘れたくないからだ。

 また、Iのような被害者としての女性だけが語られがちだが、男性よりも体格でも経済力でも劣位である女性が、どのようにして他者を服従させて支配するかについても考えてみたい。

ふたつの事件

 この事件の報道を目にしたとき、ふたつの事件を思い出した。いずれも主犯は中高年の女性であり、自分の家族に他者を引きずり込み、時には他者の家族を乗っ取ることで殺害に至った事件である。

尼崎連続殺人事件拡大尼崎連続殺人事件の角田美代子元被告=兵庫県警提供
 ひとつめは2012年留置中に自殺した角田美代子を主犯とする尼崎連続殺人事件である。かなり衝撃的な事件だったので覚えている方も多いだろう。10年以上にわたり複数の家族に入り込み金銭を脅し取り、その家族を崩壊させて自分の「家族」の一員としていくというプロセスは、何冊かの本にまとめられている(*)。留置中に自殺した彼女は、写真を見るとどこにでもいそうな60代の小柄な女性である。事件の全貌とのギャップに驚かされたのは私だけではないだろう。
*小野一光『家族喰い――尼崎連続変死事件の真相』(太田出版)、一橋文哉『モンスター 尼崎連続殺人事件の真実』(講談社)など

 ふたつめは2020年10月25日に発生した滋賀愛荘同居男性餓死事件と呼ばれるものだ。25歳の男性が体重30キロ台の飢餓状態で死亡したのをうけ、11月には同居していた55歳の女性(K)とその息子(19歳)が逮捕された。Kにつづき今年に入って未成年の長男も傷害致死罪などで起訴された。これは今回の事件と重なる部分が多いので、もう少し述べよう。

 その後の警察の取り調べによるとKはこれまでにも数人の男性と同居し、暴力をふるって金銭を取り上げる行為を繰り返しており、それらの容疑で再逮捕された。共通したパターンは、ことば巧みにきっかけをつくり自宅に招き入れ、奇妙な同居生活をしながら金銭を巻き上げ、時には暴力をふるいながら徐々に思い通りにしていくというものだ。中には、被害男性同様に食事制限をされて低栄養状態になり、命からがら脱出した男性もいたという。

 25歳の男性が、なぜ鍵もかかっていないのに逃げ出しもせず、身長163センチで30キロ台という飢餓状態のまま亡くなったのか。おそらく

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筆者

信田さよ子

信田さよ子(のぶた・さよこ) 公認心理師・臨床心理士、原宿カウンセリングセンター所長

1946年生まれ。お茶の水女子大学文教育学部哲学科卒業、同大学大学院修士課程家政学研究科児童学専攻修了。駒木野病院勤務などを経て、1995年に原宿カウンセリングセンターを設立。アルコール依存症、摂食障害、DV、子どもの虐待、性暴力やハラスメント、親子関係などにわたる本人、加害者、被害者、家族へのカウンセリングを行っている。『〈性〉なる家族』(春秋社)、『共依存――苦しいけれど、離れられない』(朝日文庫)など著書多数。最新刊は『家族と国家は共謀する――サバイバルからレジスタンスへ』(角川新書)