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田代万里生&新納慎也インタビュー/下

二人の中の「私チップ」と「彼チップ」を再起動させる『スリル・ミー』

橘涼香 演劇ライター


「これ以外の解釈ってどんなものがあるの?」と

──お二人が今改めて感じる「私」と「彼」はどうですか?

新納:どうだろう?

田代:基本的には作品の捉え方と同じく、何も変わっていません。人間なので何度も上演を重ねると色々な欲が出て来るのですが、その雑念や雑味の誘惑と戦いながら、今は一周回ってストンとシンプルに捉えています。初演と同じ、もしくはそれ以上にピュアに向き合うことで、必然的に私の誠実さと壊れている部分をより深く感じています。

拡大田代万里生(右)&新納慎也=宮川舞子 撮影

新納:きっと初演の時にこの質問をいただいたら色々と言葉で語れたと思うんですが、10年の時が経っている今は「これが私なんです」「これが彼なんです」という感覚になっていて。例えばこの10年間ずっと現場で演出助手をやってくれている方からは、「あぁ二人の『スリル・ミー』が帰って来ましたね!」と言ってもらえるのですが、僕らにしてみれば「これ以外の方法って何があるの?」「これ以外の解釈ってどんなものがあるの?」と思ってしまうんです。

田代:もうその通りで(新納を示して)「これが彼なんです」(笑)。

新納:初演から叩き込まれた人物像があるので、他の人はじゃあいったいどうやっているんだろう?と思ってしまうくらい、僕らには刷り込まれたものがありますね。この現場に入った当初こそ「10年前の自分を越えなければいけない」という思いもあって、敵は過去の自分だったし、今でも初演を越えたいと思ってはいますが、もしかしたら越えるとか越えないとかではない、僕らの中に埋め込まれた「私チップ」と「彼チップ」を再起動させるっていうことなのかなと。それくらい1回完成されている感があって、もちろん今稽古でそれをどうにか良くしようと思ってやっているのですが、その思いがかえって万里生の言った雑味になるのかも知れないので、初演から言われてきたこと、培ってきた「私像」「彼像」から生まれた二人の関係性や空気感を、敢えて変えようとせずに初演当時のものを再現できることが、もしかしたら一番良いことなのかもなと、ここ2、3日の稽古で思っています。

精神的に向かう方向がブレない

拡大新納慎也=宮川舞子 撮影

──そんな鉄壁の関係性を伺ったところで、是非お互いに感じている魅力を教えていただきたいのですが。

新納:万里生はこの「私役」に本当にピッタリだと思うんです。まず品の良さがあるし、歌の正確さは言うまでもないですし。でも10年ぶりにこの作品を一緒に作ってみて、やっぱり10年前の初演当時の万里生は、自分でも言っていましたけれども、歌手だったんだなと感じました。それが「あ、俳優さんになってきたなと」。10年前は音とか、音楽とかにすごいこだわりを持っていて、そこが僕はむしろ面白かったんです。純粋なクラシック畑を進んできた人と、道端育ちのロックな僕(笑)の、二人の声が意外と合うという。でも今は万里生も数々のミュージカルや舞台を経験して、俳優さんの歌になってきているのを感じますし、それでも若い時のピュアさや誠実さはなくさないでいる。結構もういい歳なんですけれども(笑)、そのいい歳感が全くないのは、なかなか貴重な人だなと思います。私役をやっている時の真っ直ぐさ、精神的に向かう方向がブレないのを、役者として尊敬しています。

 本人はたぶん意識していないと思いますが、「私とはこうで、彼をこう好きなんだ」と言われて「はい!」とただ真っ直ぐにそこに飛び込んで、決してブレない。それは年齢やキャリアを重ねた役者にとって簡単なことではないんですね。先ほどから出ている雑味ではないですけれども、役者の欲でどんどん色々なことをやろうとしてしまって、ブレていくことはとても多いんです。でも万里生は真っ直ぐに純粋にそこに立っていられるので、素敵ですね。

拡大田代万里生=宮川舞子 撮影

田代:新納さんはそもそも「彼細胞」で出来ているから!仮に『スリル・ミー』がなかったとしても新納さんは「彼」なんです(笑)。誰もがパッと見ただけでただ者ではないと感じる。技術とかそういうもの以上に、他の人がどんなに努力しても手に入れられないものを持っている唯一無二の人です。今は舞台だけではなくて、テレビドラマなど色々なジャンルの経験を積まれていて、様々な役者さんと接してこられたと思うのですが、その中でも「新納慎也」という個性がずーっと続きながら、クオリティをあげていらっしゃって。

 また人間としても嘘をつかないんですよ。思っていることは全部言うし、顔にも出ます。だいたい皆そういう思いはあってもどこかで妥協して、穏便に前に進んでいくんですけど、それができない人です。嫌いなことは嫌いって言うし、おかしいと感じたらおかしいと言う。一日、一日色々なことをクリアにしてから前に進まれていくからこそ「なんとなくいいよね」という作品ではなくて、明確に「こういいよね」というものにしていくのが、新納慎也さんの魅力だと思います。特に作品愛がすごく強いので、今は『スリル・ミー』をやっていますので、『スリル・ミー』愛をすごく感じますが、『ラ・カージュ・オ・フォール』もそうですし、NHKの大河ドラマもそうですが、演じる役柄や作品に対する愛がとても強い人だなと感じています。

◆公演情報◆
ミュージカル 『スリル・ミー』
東京:2021年4月1日(木)~5月2日(日) 東京芸術劇場 シアターウエスト
群馬:2021年5月4日(火)~5月5日(水) 高崎芸術劇場 スタジオシアター
愛知:2021年5月15日(土)~5月16日(日) ウインクあいち大ホール
大阪:2021年5月19日(水)~23日(日)  サンケイホールブリーゼ
公式ホームページ
公式twitter
[スタッフ]
原作・脚本・音楽:Stephen Dolginoff
翻訳・訳詞:松田直行
演出:栗山民也
[キャスト]
私役:田代万里生 × 彼役:新納慎也
私役:成河 × 彼役:福士誠治
私役:松岡広大 × 彼役:山崎大輝
ピアニスト:朴勝哲、落合崇史、篠塚祐伴
 
〈田代万里生プロフィル〉
 東京芸術大学音楽部声楽科テノール専攻卒業。大学在学中、東京室内歌劇場公演オペラ『欲望という名の電車』日本初演で本格オペラデビュー。2009年『マルグリット』でミュージカルデビュー、12年『ボニー&クライド』で初のタイトルロールを務める。主な出演作は『マリー・アントワネット』『Op110.ベートーヴェン「不滅の恋人」への手紙』『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』『エリザベート』など。第39回菊田一夫演劇賞受賞。
オフィシャルサイト
 
〈新納慎也さんプロフィル〉
 16歳の時スカウトがきっかけでモデルの仕事を始める。その後、ストレートプレイやテレビドラマなど活躍の場を広げる。2009年には『TALK LIKE SINGING』でNEW YORK OFF BROADWAYデビューを果たす。主な舞台出演作品は、『日本の歴史』『生きる』『ラ・カージュ・オ・フォール』『パジャマ・ゲーム』『パレード』など。
公式ツイッター

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

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