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コロナ禍の看護界が抱える危機──看護大学名誉教授の川嶋みどりさんに聞く

看護師が自分の技術や経験を駆使して「看護」ができる医療現場を

鈴木理香子 フリーライター

 新型コロナウイルス感染症の拡大と共に、メディアで何度となく報じられてきた看護師の労働環境の過酷さ。2020年12月、日本看護協会の福井トシ子会長も記者会見で「看護職員の心身の疲労はピーク」「使命感だけではすでに限界に近づいている」と訴えたが、実はこうした看護の労働環境や看護師の人材不足の問題は、今に始まったことではない。
 看護専門職有志が集まる「看護未来塾」の世話人の一人で、日本赤十字看護大学名誉教授の川嶋みどりさんに、コロナ禍の看護を通じて見えてきた今の看護界が抱える問題について語ってもらった。

 看護未来塾では2016年の設立時から、ずっと“看護の危機”を訴えてきました。そして昨年(2020年)から続くコロナ禍で、これまで以上に私たちは強い危機感を抱いています。

川嶋みどり

日本赤十字看護大学名誉教授

1931年生まれ。日本赤十字女子専門学校卒業。日本赤十字社中央病院看護師20年、その後、健和会臨床看護学研究所、日本赤十字看護大学学部長などを経て現職。2007年、顕著な功労のある看護師に与えられる「ナイチンゲール記章」を受章。著書に『看護の羅針盤 366の言葉』(ライフサポート社)、『看護の力』(岩波新書)など多数拡大川嶋みどり・日本赤十字看護大学名誉教授 
 衝撃だったのは、昨年9月に実施した勉強会で聞いた一人の看護師の訴えです。

 その看護師は、首都圏の大学附属病院で新型コロナウイルス感染症の重症患者を受け入れる集中治療室(コロナICU)を担当していました。連日、個人用防護具(PPE)を身につけ、感染症エリア(レッドゾーン)に入り、人工呼吸器やエクモ(ECMO:体外式膜型人工肺)による救命措置を行っていました。

 レッドゾーンでの滞在時間は短くて5~6時間、長ければ8時間にも及んだといいます。密閉された空間で、医療機器から放出される熱で室温が上がる。汗だくになりながら、水分を摂ることも、PPEの脱着に時間がかかることからトイレに行くこともできない。「患者さんに寄り添い続けたい。その使命感だけで乗り越えた」のです。

 ICUにいるコロナ感染症の患者さんの病状は一進一退です。刻々と変化する呼吸状態など、生命に関わる徴候を観察し、速やかに対処します。想像を超える緊張状態のなか、コロナICUの看護師は患者さんのケアだけでなく、ふだんは業者に委託していた室内の掃除や、理学療法士らが担当するリハビリなども行わなければなりません。感染するかもしれないという不安や恐怖のなかで、一度は覚悟を持って業務に臨んだものの、「あまりにも厳しい条件のため幾度もくじけそうになった」と、その看護師は言います。

レッドゾーン内の清掃は看護職員らが担う=2020年12月16日、埼玉県三芳町、川村直子撮影 埼玉県三芳町の「ふじみの救急病院
拡大感染症エリア(レッドゾーン)内の清掃をする看護職員ら=2020年12月16日、ふじみの救急病院(埼玉県三芳町)

 これは一病院の特殊状況ではありません。外来やクリニックでPCR検査を担当する看護師らも、長時間PPEを装着した状態で働き詰めです。物理的な負担に加えて、検査を受ける人たちの不安や戸惑いなどを受け止めながら対応するという、精神的な負担ものしかかります。

 このような状況で看護師は懸命にその職務をこなし続けています。第3波のときは医療の逼迫状況が連日メディアなどで報じられましたが、これは美談ではありません。今こそ看護師が声を上げ、国や社会に自分たちの待遇の改善を訴えなければ、いつまでも看護師の負担は軽減されないばかりか、働く環境の悪化で離・退職者が増え続けます。

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筆者

鈴木理香子

鈴木理香子(すずき・りかこ) フリーライター

TVの番組製作会社勤務などを経て、フリーに。現在は、看護師向けの専門雑誌や企業の健康・医療情報サイトなどを中心に、健康・医療・福祉にかかわる記事を執筆

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです