看護師が自分の技術や経験を駆使して「看護」ができる医療現場を
2021年04月02日
新型コロナウイルス感染症の拡大と共に、メディアで何度となく報じられてきた看護師の労働環境の過酷さ。2020年12月、日本看護協会の福井トシ子会長も記者会見で「看護職員の心身の疲労はピーク」「使命感だけではすでに限界に近づいている」と訴えたが、実はこうした看護の労働環境や看護師の人材不足の問題は、今に始まったことではない。
看護専門職有志が集まる「看護未来塾」の世話人の一人で、日本赤十字看護大学名誉教授の川嶋みどりさんに、コロナ禍の看護を通じて見えてきた今の看護界が抱える問題について語ってもらった。
看護未来塾では2016年の設立時から、ずっと“看護の危機”を訴えてきました。そして昨年(2020年)から続くコロナ禍で、これまで以上に私たちは強い危機感を抱いています。
その看護師は、首都圏の大学附属病院で新型コロナウイルス感染症の重症患者を受け入れる集中治療室(コロナICU)を担当していました。連日、個人用防護具(PPE)を身につけ、感染症エリア(レッドゾーン)に入り、人工呼吸器やエクモ(ECMO:体外式膜型人工肺)による救命措置を行っていました。
レッドゾーンでの滞在時間は短くて5~6時間、長ければ8時間にも及んだといいます。密閉された空間で、医療機器から放出される熱で室温が上がる。汗だくになりながら、水分を摂ることも、PPEの脱着に時間がかかることからトイレに行くこともできない。「患者さんに寄り添い続けたい。その使命感だけで乗り越えた」のです。
ICUにいるコロナ感染症の患者さんの病状は一進一退です。刻々と変化する呼吸状態など、生命に関わる徴候を観察し、速やかに対処します。想像を超える緊張状態のなか、コロナICUの看護師は患者さんのケアだけでなく、ふだんは業者に委託していた室内の掃除や、理学療法士らが担当するリハビリなども行わなければなりません。感染するかもしれないという不安や恐怖のなかで、一度は覚悟を持って業務に臨んだものの、「あまりにも厳しい条件のため幾度もくじけそうになった」と、その看護師は言います。
これは一病院の特殊状況ではありません。外来やクリニックでPCR検査を担当する看護師らも、長時間PPEを装着した状態で働き詰めです。物理的な負担に加えて、検査を受ける人たちの不安や戸惑いなどを受け止めながら対応するという、精神的な負担ものしかかります。
このような状況で看護師は懸命にその職務をこなし続けています。第3波のときは医療の逼迫状況が連日メディアなどで報じられましたが、これは美談ではありません。今こそ看護師が声を上げ、国や社会に自分たちの待遇の改善を訴えなければ、いつまでも看護師の負担は軽減されないばかりか、働く環境の悪化で離・退職者が増え続けます。
実は、看護師不足や看護師の労働環境の問題は今に始まったことではなく、戦後からずっと続いています。私が看護師になって70年あまり経ちますが、看護師が足りていた時期はこれまで一度たりともありません。
国も何度となく看護師の増員を図ってきました。その結果、看護師の数は年々増え、現在就業者数(准看護師を含む)は160万人を超え、医療従事者の中でもダントツに多くなりました。それでも今の日本の医療を支えるには数が足りず、看護師は常に多忙感を抱え、疲弊しています。
なぜ看護師が足りないのか、その理由は大きく二つあります。一つは医療の高度化、もう一つは超高齢化です。
看護師の役割を定めた法律に、「保健師助産師看護師法(保助看法)」があります。ここには、看護師の二大業務として「療養上の世話」と「診療の補助」が挙げられています。
療養上の世話は、健康なときに自ら行ってきた日常的な営みを、病気や手術、高齢などといった状態にかかわらず、できるだけ継続できるよう援助することです。また、患者さんのそばにいて、聴き、触れることが看護の基本です。手や背中を黙ってさするだけで患者さんの心が開かれ、不安が和らぎ、痛みさえ取り除かれることがあるのです。
ところが、実際には1日の仕事の大半が診療の補助に割かれ、療養上の世話にまで手が回らない状況が長く続いています。患者さんに直接触れるケアの頻度が少なくなってしまったのです。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください