ペリー荻野(ぺりー・おぎの) 時代劇研究家
1962年、愛知県生まれ。大学在学中よりラジオパーソナリティを務め、コラムを書き始める。時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」のプロデュースや、「チョンマゲ愛好女子部」を立ち上げるなど時代劇関連の企画も手がける。著書に『テレビの荒野を歩いた人たち』『バトル式歴史偉人伝』(ともに新潮社)など多数。『時代劇を見れば、日本史はかなり理解できる(仮)』(共著、徳間書店)が刊行予定
田中邦衛さんが亡くなった。最後まで前向きに生き、家族に見守られながらの旅立ちであったという。よき家庭人であった田中さんの人柄が伝わってくる。
田中さんの出演作といえば、最初に思い浮かぶのが国民的ドラマとして親しまれた「北の国から」(1981年~、フジテレビ系)だ。訃報を伝えたニュースの街頭インタビューでも多くの人が、「北の国から」の田中さんへの思いを語っていた。北海道・富良野の大自然の中で、ふたりのこどもを必死に育てる寡黙な父・黒板五郎。挫折したり、道に迷うこどもたちをいつも受け入れ、味方になる。不器用だがあったかい。こんな五郎は、田中さんだからできたんだなと改めて思う。
朴訥で穏やかな役柄の印象も強いが、田中さんは、アクションもこなす俳優でもあった。特に時代劇では、「怒れる武闘派」といえる役が多い。
その片鱗がうかがえるのが、黒澤明監督の映画『椿三十郎』(62年)だ。
田中さんは、藩上層部の不正を正そうと躍起になる若侍集団のひとり保川邦衛役。敵方は人質をとって若侍たちを脅す。そこにふらりと現れた浪人・椿三十郎(三船敏郎)が、彼らを助けようとするのだが、保川は三十郎に激しく反発する。62年の公開当時、田中さんは29歳。70年代の終わりにこの映画を初めて観た10代の私は、モノクロ画面の中でカッカする若侍が田中さんだと最初は気がつかず、あの個性的な声が響いて「若い!」と当たり前のことに驚いたのだった。
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