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「レコメンド」が生み出す快楽の不安

「不快」と対峙することで生まれるもの

天野千尋 映画監督

AIが選んだプレイリストの心地よさ

 今更ながら衝撃を受けたことがあった。

 その日、仕事で良いことがあり朗らかな気分で夕暮れの道を家に向かっていた。

拡大Tysovska Nina/shutterstock.com
 軽い足取りで歩いていると音楽を聴きたくなり、音楽アプリを立ち上げて、アプリが私にレコメンドするプレイリストを何気なく再生し始めた。そこで、のほほんとしていた頭をガツンと殴られるような驚きがあったのだ。

 何に驚いたのかというと、最新のレコメンドのクオリティだ。

 というのもここ数年、私は音楽ストリーミングサービスのサブスクリプションにはずっと加入しているものの、レコメンド機能を何となく拒否してきた。別に断固たる意思があってのことではないけれど、心のどこかで「何となくAIに自分の好みの分析をされたくない」とアナログ人間の性が働いていたからだった。意味もなく頑なになり、あえて自分で作ったプレイリストを聴き続けたり、一つのアルバムを通して、という昔ながらの聴き方を延々と続けていた。

 しかし、数年ぶりに何の気なしに聴いたレコメンドプレイリストは、信じられないくらい自分の心と体にベストフィットしていた。

 単に私の好みに合っているだけじゃない。この宵の時間に一人浮かれ気分で家まで歩いている私、という状況含めた設定にピッタリなのだった(たまたまかもしれないが)。

 「あなたが好きなこのアーティストの中でも、今はあの曲よりもこの曲でしょう? その次はこういう感じでしょう、この順番でしょう、分かってるんだよあなたの心は」と見透かされているような心持ちで、ただただびっくりした。

 永遠にこの空間に浸ってゆらゆら歩き続けていたい。こんな快楽をみすみす逃していたなんて。愚かだった。最新テクノロジーを無下に拒んできた数年間を悔やんだ。

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筆者

天野千尋

天野千尋(あまの・ちひろ) 映画監督

1982年生まれ。約5年間の会社勤務の後、2009年に映画制作を開始。ぴあフィルムフェスティバルを始め、多数の映画祭に入選・入賞。主な作品に、短編『フィガロの告白』『ガマゴリ・ネバーアイランド』、長編『どうしても触れたくない』、アニメ『紙兎ロペ』の脚本など。19年、『ミセス・ノイズィ』が東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に選出された。日本映画批評家大賞脚本賞受賞。自ら執筆した小説版『ミセス・ノイズィ』(実業之日本社文庫)も刊行。

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