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「週刊文春」などへの言論封圧と東京オリンピック神聖化を危惧する

野上 暁 評論家・児童文学者

 政府が緊急事態宣言を解除したのをまるで待ち受けていたかのように、新型コロナウイルスが再び猛威を振るい始め、6都府県の地域に急遽「まん延防止等重点措置」を採らざるを得ない状況となった。

 このような中で、東京オリンピックの聖火リレーが3月25日に福島からスタートして日本列島を継走中だが、感染者数が急増している大阪府は全域中止となり、代替措置として吹田市の万博記念公園内を無観客で実施することになったという。

 感染者が全国的に増加傾向にある中で、有名人ランナーの走行を見ようと沿道に観客が殺到すれば、更に感染者が増える恐れが多分にある。にもかかわらず、聖火リレーを強行するのはなぜか。オリンピック開催可能性を海外にアピールしたいからか、感染者数を把握するPCR検査体制の強化を国も東京都も避け続けてきた。コロナ禍で自粛を強いられる国民の鬱屈した気分を払拭するために、「コロナに打ち勝った東京五輪」などと、オリンピックを政治利用してきたようにも思える。

聖火ランナーとして走るレスリング五輪金メダリストの吉田沙保里さん=2021年4月7日、三重県津市北河路町 「密」のなか、聖火ランナーとして走る五輪金メダリスト(レスリング)の吉田沙保里さん=2021年4月7日、三重県津市北河路町

 そもそも、こんな状況でオリンピック開催そのものが可能なのか? 各紙の世論調査でも、7割前後の人たちが中止か延期を望んでいるというのに何とも理解しがたい。

疑惑やトラブルの連続、そして言論統制

 東京オリンピック・パラリンピック2020は、招致をめぐる贈収賄疑惑や、安倍前首相のアンダー・コントロール発言、新国立競技場のデザイン変更、公式エンブレムの盗作問題と、スタート時点から疑惑やトラブルの連続だった。

 そのうえコロナ禍で1年延期となり、さらに今年に入ってからも組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言にともなう新会長選出のドタバタ劇。やっと橋本聖子会長に決まったと思ったら、今度は開会式演出責任者の佐々木宏氏がタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱する演出案を披露したことを理由に3月18日、辞任を表明するなどなど混乱を極めている。

 その佐々木氏が演出責任者に選ばれた経緯を、3月31日の「文春オンライン」が明らかにした。それによると、2019年6月から開会式の演出指揮の執行責任者になっていた演出振付家・MIKIKO氏は、本人も知らないうちに電通出身の佐々木氏を推す電通の代表取締役らにより演出チームから外され、IOC(国際オリンピック委員会)からも高く評価されていたMIKIKOチームの演出案も変更されたという。そこで「週刊文春」は葬り去られた280ページにわたる開会式の演出案を紹介する。

 これらに対し組織委員会は、著作権侵害に当たるなどを理由にほかの記事と合わせて橋本聖子会長名で「週刊文春」編集部に抗議し、雑誌の発売中止と回収などの要求を送りつける。これは由々しき言論統制であり、国民の知る権利に対する侵害であり容認することはできない。

東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長週刊文春や毎日新聞を相手に、雑誌の回収や謝罪・訂正を求めた東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の橋本聖子会長

 組織委員会は、別件で「毎日新聞」にも抗議し、謝罪と訂正を求めたという。同紙は4月1日朝刊で、“五輪「人件費単価」30万円 肥大化止まらず”として、オリンピック会場運営に当たる企業委託費の積算にあたり、1人1日の人件費を最高30万円と設定していたと内部資料を基に報じたのだ。通常の3倍もの人件費単価は異常と言えるが、全会場の運営は電通や博報堂などの広告代理店に委託されていて、実際に労働者に払われる日当はその半分程度だというから実に不可解である。

 組織委員会は、人件費単価の設定は行っていないと毎日新聞の報道を否定しているが、内部関係者は事実だと証言する。ことほど左様に、組織委員会の運営実態は不透明なのだ。国民の多額な税金を投じて運営されるオリンピックの内実を、国民の目に明らかにするのはメディアの当然の責務であるにもかかわらず、それを報じたメディアに対して抗議し、謝罪や訂正ばかりか雑誌の発売中止や回収を要求するとは、表現の自由に対する著しい侵害であり言論統制も甚だしい。

 発売中止要求は、戦前の思想統制のための検閲と発売禁止処分を彷彿させるし、雑誌の回収となると、出版社の損失は甚大である。ちなみに、1990年『少年ジャンプ』45号掲載の「燃える!お兄さん」が職業差別で回収に追い込まれた際にかかった費用は

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