井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者
1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍、科学書などの編集を経て、現在は漫画配信サービスの編集長。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
「健常児と発達障害児を何でもかんでも混ぜればいい、という考えには反対です」
本来ならプロ野球開幕にあわせた企画をやるべき本欄ですが、自分が10年以上もご縁があった著者の新刊に衝撃を受けたので、ぜひ紹介させてください。
タイトルは『大学教授、発達障害の子を育てる』(光文社新書)。著者・岡嶋裕史氏は技術解説書分野の第一人者にして、中央大学教授。百何十冊も著書があるのに雑な仕事はせず、私の同業者も「あんないい人はいない」と口をそろえる好人物です。
私自身も多くの原稿をやり取りしてきましたが、打ち合わせはスムーズだし、いつも締め切りに前倒しで原稿を送ってきて、トラブルも皆無。こちらがミスをやらかしても怒らず迅速対応してくれますし、聖人か何かではないかと心配になるほどでした。
そこに出てきたこの本。タイトル通りの内容で、岡嶋氏がスペクトラム障害と診断された息子さんを療育する話なのですが、途中から変な展開になります。
療育の現場に深くコミットするにつれて、岡嶋氏は自分自身も学校に適応できなかった発達障害児であったと確信。コミュニケーションにおける自らの「生きづらさ」を半生とともに赤裸々に告白していくのです。
原稿を異常に早くアップさせるのは、強迫的な恐怖と慢性的な不眠のため。打ち合わせがスムーズなのは、会話のルールが分からないので、「キャバクラ話法」で相手を持ち上げるテンプレで乗り切ってきたから。編集者がミスをしても怒らないのは、他者が何をやらかしてもまったく関心を持てないから、怒る必要性を感じない、というだけの話……。
そうだったのか……。単に「スゲーいい人だなあ」とぼんやり感謝しているだけだった、己の人を見る目のダメダメぶりに大ショックを受けた次第です。
それどころか、そんなコミュニケーションが苦痛で仕方がない岡嶋氏に、オタク飲みしようぜと飲酒に誘い(しかもアルコールを飲むのは私だけ)、あまつさえパーティーとかにも一緒に参加したりしていたのです……。なんと罪深いことだったのか。
かくして深い慚愧の念とともに、改めて岡嶋氏にZoomでのインタビューを申請しました。今なら「発達障害との付き合い方」をテーマに、突っ込んだ本音が訊けるのではないかと思ったのです……。