伊藤達哉(いとう・たつや) 演劇プロデューサー、「緊急事態舞台芸術ネットワーク」事務局長
1974年生まれ。早稲田大学在学中に劇団阿佐ケ谷スパイダースの制作として演劇活動を始め、2004年に有限会社ゴーチ・ブラザーズを設立し、代表に就任。数多くの演劇公演をプロデュースしている。日本劇団協議会理事、舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事なども務める。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
根拠示されぬ「中止要請」と向き合いながら
コロナ禍で舞台芸術界は1年以上、激しい「出血」を強いられてきた。当時の安倍首相が突然、「大規模イベントの中止・延期」を要請した2020年2月26日以降、膨大な数の公演が中止・延期を余儀なくされ、19年には6295億円あったライブエンターテインメント市場は、その8割を失った(ぴあ総研試算)。息も絶え絶えなところに3度目の緊急事態宣言が出た。演劇界を横断する「緊急事態舞台芸術ネットワーク」事務局長の伊藤達哉さんが現状を語る。(構成・山口宏子)
電話をかけても、かけても、呼び出し音が鳴るだけ。メールを送っても返信はない。
4月24日、東京で演劇公演を主催している人たちは、朝から東京都と連絡をとるために、空しい努力を続けていました。
菅首相が記者会見をして、25日から緊急事態宣言を出すと正式に発表したのは23日午後8時でした。その後、深夜から未明にかけて、内閣官房コロナ対策室から各都道府県知事と他省庁の担当者に「事務連絡」が出され、それが文化庁から私たちのところにメールにて届いたのは24日の午前4時08分。公演主催者たちは、対応のために6時前から動き始めました。
政府の基本方針で、イベントについては〈社会生活の維持に必要なものを除き、原則として無観客で開催するよう要請を行う〉とされました。
演劇の場合、事前に同時配信を予定していた、ごく少数の例外をのぞいて「無観客開催」は不可能。実質、中止せよという通告です。
チケット販売済みの公演は実施することができた2度目の緊急事態よりも、今回は厳しい対応を迫られるだろうと予想し、対応準備も始めていました。しかし、実施までに24日土曜のたった1日しかないタイミングでの発表に、現場は大混乱しました。すでにチケットを買っているお客様に周知するには、数日は必要です。その猶予期間をとれるのか、否か。