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『WOWOWオリジナルドラマ向こうの果て』で連続ドラマ初主演!松本まりか取材会レポート

希薄になってしまった人と人との結びつきや人間ドラマが描かれている

橘涼香 演劇ライター


 今もっとも注目される実力派女優・松本まりかが連続ドラマ初主演を務める『WOWOWオリジナルドラマ向こうの果て』が、WOWOWプライム・WOWOWオンデマンドにて5月14日よりスタートする(毎週金曜よる11時放送・配信。全8話、第1話無料放送)。

 『向こうの果て』は、ドラマ・舞台・小説の3つのコンテンツで展開されるオリジナルシナリオの連動プロジェクト。舞台版は4月23日より下北沢・本多劇場にて上演された。舞台版を手掛ける劇団・ゴツプロ!は、2016年の旗揚げ以来、右肩上がりで動員数を伸ばしている注目の劇団で、旗揚げ以来男性キャストのみで公演を行ってきたが、舞台版『向こうの果て』では初の女性キャストとして小泉今日子がゲスト出演(※舞台版キャストはドラマ版キャストとは異なる)。

 また小説は幻冬舎より発売中で、ドラマ版・舞台版の脚本及び小説を書き下ろすのは、ゴツプロ!の座付き作家でもある脚本家・竹田新。昭和60年の東京を舞台に、痴情のもつれから、マンションの一室で発生した放火殺人事件の容疑者として逮捕された池松律子をめぐる物語。これまで彼女に関わってきた数々の男たちの証言から浮かび上がるのは、全く異なる律子像。謎を呼んだ果てに、すべての真相が明らかになる衝撃のラストまでを描いていく。

 そんな作品のドラマ版で、連続ドラマ初主演を果たす松本まりかの取材会が開かれ、撮影に臨んだ日々、作品や役への想いを語ってくれた。

お芝居をしていて痺れるような感覚があった

拡大松本まりか=岩田えり 撮影

──作品に入られる前に「ずっと求めていた作品だ」とおっしゃっていましたが、実際に撮影を終えられた今、いかがですか?

 律子は色々な顔を持っていて、ひとつの作品の中でこれだけ顔が違う役はこれまでになく、とても挑戦しがいのある役でした。クランクインからクランクアップまで、お芝居をしていて痺れるような感覚が何度かあったんです。なかなかあることではないだけに、ひとつの作品の中その感覚を味わえたのは印象深いです。

 役者同士だけではなくて、スタッフさんたちとも集中力が一点に集まった時って、私にとっては最高の瞬間なんです。自分とすべての人とひとつになると言うか。凄く集中したワンカットには、これを体験したくてお芝居をやっているに等しいものがある。それが何度かあったというのは、今回の作品の大きなやりがいでした。映像をご覧になる視聴者の皆様にも、そのゾクッとくる瞬間を味わってもらえたらいいなと思っています。

演技だけでつながる信頼関係が持てた

拡大松本まりか=岩田えり 撮影

──そうした周りの空気から、松本さんの演技が引き出されていった部分も?

 撮影初日からとても居心地がよかったんです。皆さんが本気を出す瞬間がガシッと結びつくクルーで。作品の舞台が昭和ですから、メイクや衣裳から今とは違う世界観を作りあげていきましたし、撮影の伊藤麻樹さんとのセッションもすごく面白い体験でした。こういう役柄でもあったので、現場では挨拶したり仲良く接するということはほとんどありませんでしたが、唯一、本番の時だけ、皆さんと呼吸が合って通じあっていく感覚がありました。とてもシンプルで心地の良い瞬間でした。

 共演者の方々とも同じで、律子と松下洸平さんが演じる君塚公平とは特別な愛情で結びついているのですが、私は洸平君とははじめましてで。役者同士としてはコミュニケーションをとっていないに等しかったですが、それでも撮影に入った時には不思議と理解し合える。私が彼をどんなに足蹴にしようが、常に愛情深く側に居続けてくれる安心感がありました。松下洸平さん自身ことは個人的には知らないけれども、演技だけでつながる信頼関係が持てたのがとても良かったです。

 他の俳優さんたちとも皆そうで、クランクインの日に撮影した律子の二番目の夫である、山之内一平役の渋川清彦さんとのシーンでも同じような感覚がありました。お話できずにアップしてしまったのですが、プロデューサーさんを通じて渋川さんが「とてもやりやすかった」と言って下さったとお聞きして、すごくホッとして。そこからそれぞれの私を取り巻く男性の方々との演技も同様に続けていけました。

 1話、2話をご覧いただいている間は、わかりにくいかも知れないのですが、最終話の8話までご覧いただく中で、狂気を孕んだ美しい映像と共に、現場で起こったゾクっとするような瞬間を感じていただけるのではないかと期待しています。

──その瞬間を感じた場面を、具体的にあげていただくことはできますか?

 ひとつ挙げるとすると、最終話の担当検事・津田口亮介役の柿澤勇人さんとの取り調べシーンですね。それまである意味壊れていたと言うか、何者なのかがわからなかった律子が、すごく素直になっていく、心が露わになっていく瞬間のやりとりが、いまこうしてここにいる私とは別次元でできていたと思います。とても研ぎ澄まされた状態で演技のやりとりが叶ったと言うか。特に今の新型コロナの状況では、人と交わることが難しいじゃないですか。だからこそ人とつながりたい、信頼し合いたいという思いがそこに集中した気がしています。この瞬間さえあればそれでいいとさえ思えました。

律子は自分の中にいたんだなと

拡大松本まりか=岩田えり 撮影

──そういう作品で初主演になったことについては?

 この20年間、心の奥底ではいつかは主演をやってみたいとは思ってはいました。でも今回「主演で」というお話を実際にいただいた時には、やっと巡り合った嬉しさや主演作ということよりも、この作品と、この役への興味や重圧の方が大きくて。ですからもしも律子がこの作品の中で「主役」ではなかったとしても、演じる上では何も変わらなかったと思います。

 先ほどもお話したように現場にも恵まれ、撮影初日に、「この現場はお任せして大丈夫だな」と思ったんです。各セクションの方々がそれぞれのお仕事に邁進した結果、最高の瞬間が生まれたのだと思います。ひとえに優秀なキャスト、スタッフの皆様のおかげです。

──挨拶できない状態だったというのは、その時既に律子にシンクロしていたからでしょうか?

 まずメイクをしていただきながら、これからの撮影のシーンのことや、律子に思いを馳せていくのですが、準備が全てできて撮影現場に移動した時に、急に「おはようございます!」とは切り替えるのが難しくて。逆にそこで仮に切り替えてしまったとしたら、今度は肝心の撮影ですぐ律子の心境に戻れるほど私は器用ではないと言うか。どう考えても社会人として良い態度とは言えませんが、それを現場で許容していただけたことには本当に感謝しています。第一に芝居をやりやすい状態でずっと居させてもらえたのはありがたかったですし、クランクアップの後にやっと皆さんとお話出できたのが嬉しかったですね。

拡大松本まりか=岩田えり 撮影

──色々な方が証言する「律子像」が全く違う人物に見えるというのが、作品のひとつの面白さでもあると思いますが、場面場面で演技も変えられたのですか?

 担当検事の津田口に対してはどんどん変わっていくのですが、他の男の方達にはそれぞれの方との関係性なので、意識して変えたというよりは、この人には律子はこう思っているという感覚でした。衣裳やメイクも変わっていますし、状況も変わっていますが、自分で演技を変えようとはしていなかったと思います。むしろ相手役の方が変わらせてくれたのかなと。

──演じる前と後とで、松本さんご自身の律子に対する感じ方は変わりましたか?

 演じる前は、律子は底なし沼のようで理解不能でとても悩みました。でも演じた後には律子は自分の中にいたんだなという気がしました。私は彼女ほど不幸な生い立ちではありませんが、それでも律子がもがいている、その片鱗は感じることができたし、頭で考えたというよりは、目の前の人に対峙することで貰うものがとても多かったと思います。

 例えば愛しているのに凶暴な行為に出るのはどうしてか? といくら考えてもわからなかったのですが、(君塚公平役の)洸平くんを目の前にすることで自然に壊れさせてくれたんです。公平を見ていると、強い拒絶反応が起きて手が出てしまうんです。それが「愛するひとへの暴力」に自然と繋がりました。彼とは特別な愛情で結びついていて、彼があまりにも純粋なまなざしで真っ直ぐに見つめてくるからこそ「この汚れてしまった私を、そんな目で見ないで!」という気持ちが引き出されて暴力を奮ってしまう。そんな耐えきれない感情に彼がさせてくれました。また、柿澤さんは淡々と私を開かせてくれました。ですから、撮影が進むにつれてどんどん私は身ひとつで、相対する男の方達に頼り切って出ていくことができました。

皆がアーティストでいられる現場

拡大松本まりか=岩田えり 撮影

──作品を書き下ろした山野海(筆名:竹田新)さんと一緒にお芝居をされることについてはどうでしたか?

 本当に良い脚本を書かれるんです! でも海さんは役者として出られる時にはそれをスッパリ切り離していらして。自分が書いた役ですから、演じる上でも自分の解釈が正しいはずなのに、監督が「こうして欲しい」とおっしゃったことには、一女優さんとして「わかりました」と、スッと対応されるのがすごいなと思いました。ただ二年かけて書かれた物語なので、ご自分が描いた世界観が立体になっていくことには、とても感動していらっしゃるのが伝わってきました。よくモニターも見に行かれていましたし「あぁ、律子がいる」と言ってくださったのは嬉しいことでした。

──WOWOW製作の連続ドラマには非常に骨太な作品が多くて、今回の『向こうの果て』も地上波では描くことが難しくなっているようなテーマを取り上げていると思いますが、WOWOW製作ドラマの特徴をどう感じますか?

 とても映画的ですね。作品の中でガンガン煙草も吸いますし、とても尖ったこともできます。バイオレンスをするシーンもありますし、罵詈雑言も言える。物語の表現方法の一つとしてある程度許容されているんです。監督さんや脚本家さんの表現したいものができる、皆がアーティストでいられる現場です。

拡大松本まりか=岩田えり 撮影

──この作品の場合は、クランクインの時に最終話まで脚本があったのですか?

 ありました。それも大きな違いでしたね。いま、他の連続ドラマの現場では結末はわかっていないことがほとんどで、もちろん知らないで演じているからこその生の感覚、その良さというものもあるのですが、やっぱり律子を演じる上では逆算ができて、役のことを考えられたのは大きかったです。特に「内田組」でもありましたから、連続ドラマですけれども、とても映画的な魅力にあふれていたと思います。

──舞台版との連動企画ということで、舞台版では同じ律子役を小泉今日子さんが演じられることも話題ですが、そちらも併せて、番組を楽しみにしている視聴者の方々にメッセージをお願いします。

 小泉さんと同じ役を演じられるというのは恐れ多く、身の引き締まる思いでした。もちろん私も舞台を観に行きます! 生の舞台で小泉さんが演じる律子がすごく楽しみですし、早く見たいと思っています。そうした企画と併せて、今こんなにも人間の本質をえぐりだす作品はなかなか見られないのではないかと。昨今では希薄になってしまった人と人との結びつきや人間ドラマが描かれている、キャストもスタッフの方々も皆が感動した現場でした。是非最後までご覧いただきたいと思っています。

◆番組情報◆
『WOWOWオリジナルドラマ向こうの果て』(全8話)
WOWOWプライム・WOWOWオンデマンドにて5月14日よりスタート
※毎週金曜よる11時放送・配信。全8話、第1話無料放送
TELASAでは、各話終了後配信スタート
公式ホームページ
[スタッフ]
原案:ゴツプロ!第六回公演『向こうの果て』
監督:内田英治
脚本:竹田新
音楽:牧戸太郎
主題曲:小山豊(津軽三味線小山流三代目)時雨」
[出演]
松本まりか、松下洸平、柿澤勇人、加治将樹、渋川清彦、豊本明長、宇野祥平 ほか

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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