東京五輪延期を決めた2020年3月のほうが「さざ波」では?
2021年05月13日
新型コロナウイルスの感染状況について、内閣官房参与を務める高橋洋一・嘉悦大教授がツイッターで「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」と投稿したことに、大きな批判が集まっています。
確かに、日本よりも感染者数の多い国々と比べると、そのグラフの波は穏やかに見えるかもしれません。ですが、日本に住む私たちが実際に体感している波は、決して「さざ波」レベルではありません。
死者数は1万人を超え、阪神淡路大震災(6434人)を大きく上回りました。一部の医療現場は火の車で、自宅療養中に死亡する例も相次いでいます。失業率も上昇し、倒産件数や自殺者も増え、多くの国民が我慢を強いられているわけです。
まるで「津波」に襲われるような生活を強いられている人も少なくない中で、「自分たちの命や生活を守るのに精一杯で、さすがに五輪を開催できる状況とは思えない」と考える国民を嘲笑するようなこの発言は、人の命や平穏な暮らしを軽んじるものであり、「市民感覚」からあまりにかけ離れています。
インターネット上の投稿やメディアでの取り上げ方を見ると、主に「さざ波」という表現を用いたことに対して批判が起こっているようですが、この発言の最大の問題点は、最後に「笑笑」をつけたことだと思います。
たとえば、同じ「さざ波」という表現でも、「死者数が一桁多い国々と比べると、日本のグラフは“さざ波”に見えるかもしれないが、死者1万人というのは、絶対数として少なくない」といった使い方であれば、批判がここまで起こることはなかったはずです。
ところが、高橋洋一氏は、五輪に反対する意見を嘲笑する文脈で「さざ波」という言葉を使いました。反対意見の中には、家族を新型コロナで失った人や医療現場で働く人もおそらくいる(※実際に当事者からの批判リツーイトも相次いでいました)にもかかわらず、その必死な願いをせせら笑うような態度を取ったわけですから、人々が怒りを覚えるのも当然でしょう。
また、この投稿は、「見下すような視点」に限らず、主張内容自体にも疑問を抱かざるを得ない点がいくつかあると思います。
たとえば、2021年5月上旬現在の全国の新規感染者数は、1日あたり6000人を何度も超えていますが、2020年の五輪開催延期を決定(3月24日)する前は、最も多い日でも63名(3月14日)でした。つまり、現在と比べると、当時のグラフは100分の1の「さざ波」なのです。
もし、「感染者数が6000人程度と少ないのに、中止(または延期)を求めるなんておかしい!」と、今の世論をやり玉に上げるのであれば、63名で延期の決定をした安倍前首相
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