2021年05月18日
[1]社会現象となった『モルカー』と異色の長編『JUNK HEAD』
[3]短編『オイラはビル群』、『こぐまのユーゴ』、長編企画『星は巡る』
[4]川本喜八郎・岡本忠成作品の魅力──アニメーション芸術を探究した両巨匠
ストップモーションは昔から時間・場所・撮影機材などが確保出来れば、個人でも制作可能だ。今年同時多発的に完成・公開が続く話題作も、実は長い歳月の制作の結果生まれたものだ。
昨年(2020年)、コロナ禍で国内の大多数のアニメーション作品の制作が遅延を余儀なくされたが、ストップモーション制作は止まらない。リモートワークによる混乱や多少の不便はあっても、立体をコツコツと動かしては撮影する現場は元々孤独なものだ。
コロナ禍で岐路に立つアニメーション(上) リモートとアフレコの課題
コロナ禍で岐路に立つアニメーション(下) 人の心を潤す力を信じて
前回(「[1]社会現象となった『モルカー』と異色の長編『JUNK HEAD』」)紹介の2作品の他にも、コロナ禍の日本で数多くの話題作、知られざる意欲作が日々制作されている。本連載第2回、第3回はそうした多彩な新作群を紹介したい。
日本最大のストップモーションスタジオ「dwarf(ドワーフ)」は、ホリプロとの共同企画による3分20秒のオリジナルミュージカル短編『ギョロ 劇場へ』を制作し、3月31日にYouTubeチャンネルにて動画配信が開始された。オペラグラスのギョロ、少年、祖父と母が劇場への思いを歌う。
構成・脚本・歌詞はミュージカル演出家の宮本亞門氏、映像演出は春山“デビ”祥一監督が担当。マリオネット人形による実写操演とストップモーションアニメーションを組み合わせたハイブリッド作品として制作された。映像メディア専門の人形劇・人形制作会社スタジオ・ノーヴァが操演人形の仕掛け制作を、東京・新宿に日本初の人形劇専門劇場を持つ人形劇団プークが操演を担当した。
アニメーション制作は、ドワーフの松本紀子プロデューサーの提案により、世界中の映画祭で受賞が相次ぐ『ごん GON, THE LITTLE FOX』(2019年)を制作したスタジオ「TECARAT(テカラ/太陽企画)」が担当した。ドワーフとテカラ、日本のストップモーションの2大スタジオの夢のコラボレーションの実現である。キャラクターデザインはドワーフの合田経郎氏、造形とアニメートはテカラの八代健志氏が担当した。
通常ストップモーションの撮影ではアーマチュア(金属の骨格)を内包し、自在なポーズで静止させるパペット(人形)を使用する。しかし、本作ではあえてアーマチュアのない木彫のマリオネットを使用し、糸吊りやリグ(固定用の棒)もそのまま撮影し、操演パートとの融合を試みている。自然照明と舞台風照明の混在や、流麗で動的なミュージカルに表情など制限の多いマリオネットで挑んだ実験的姿勢も興味深い。
また、ドワーフはストップモーションの新作シリーズ『リラックマと遊園地』の制作を発表している。Netflix配信で好評を博した『リラックマとカオルさん』(2019年/小林雅仁監督)の続編であり、こちらも大きな話題となっている。
ミュージカルショートムービー『ギョロ 劇場へ』
ホリプロによる告知
コマ撮りアニメーションで被災地によりそう『By Your Side』 合田経郎監督インタビュー「自分に何が出来るのかをずっと考え続けていた」
『こまねこ』パイロット新作が世界配信(上) 「日本独特のコマ撮りアニメーションが世界で支持されて欲しい」 松本紀子氏に聞く
珠玉の人形アニメーション『ごん』、手作りの魅力と切実な問い
スタジオだけでなく個人作家や自主制作の躍進も目覚ましい。
ドワーフ出身のアニメーター篠原健太氏は、人気作品の市販フィギュアを動かしたアンソロジー風短編とそのメイキングを多数配信している。2019年にはTwitter、TikTokで総計430万回再生を達成、YouTubeチャンネルの登録者は38万人を超えている(5月17日現在)。
2019年には世界の若手クリエイターを表彰する「NY ADC Young Guns17」で、日本人唯一の「WINNER(各国から28人選出)」と日本人初の一般投票選出「Creative Choice Award」をダブル受賞。昨年独立し、スタジオ所属アニメーターとも個人作家とも異なる「コマ撮り大道芸人」を自称して独創的な活動を展開している。
スタジオを飛び出し、ネットやテレビメディアでコマ撮りの魅力を即興的に披露するという、新たなエンタテイメントは今後も一層注目を集めることであろう。
細川晋監督は、2007年から足掛け13年を費やして24分の自主制作作品『DINO!』を完成させた。
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