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「おちょやん」が不完全燃焼だったのは、浪花千栄子の執念から逃げたから

矢部万紀子 コラムニスト

感動の総決算?

 戦争で亡くなった春子の実母は、看護師だった。だから自分もなりたい。それは前から言っていた。でも算数と理科が苦手だから諦める、やってダメよりそっちの方がいい。途中からそう言い出した。それらが千代の鶴亀新喜劇復帰に向けての伏線で、最終週でも春子は「頭悪いさかい、絶対に無理やねん」と言っていた。だとしても、それと復帰とどう関係あるのかなあ。そのこころは、千代が自ら解説してくれた。

 最終週の3日目、千代は道頓堀で一平と妻に会った。「申し訳ありませんでした」「すまんかった」と千代に頭を下げる2人。ややあって、「顔をあげとくれやす」と千代。「うん、うん、大丈夫や」と声に出して自分に言い聞かせ、一気に語る。道頓堀から逃げ出した離婚直後のように、2人に会ったら芝居ができなくなるような気がしていた。ラジオドラマも評価され、過去は忘れようと思っていた。でも、道頓堀が好きだ、もう一度、あそこで芝居をしたい、自分たちの喜劇を娘に見せたい、と。

 23歳の杉咲さんの表情に貫禄がにじむ。40歳を超え、ラジオドラマをヒットさせている女優なのだ。だから、芝居に復帰する、もう大丈夫という千代の心理はわかる。その芝居を娘に見せたいという思いもわかる。でも、芝居を見た娘が「看護婦になります」と宣言する理屈がわからない。

 お母ちゃんも離婚という痛手から逃げないことにしたのね、だから私も算数と理科から逃げないわ、だろうか? いやいやそうでなく、お母ちゃんも頑張っているから、私も頑張る。それくらいのことだと理解し、納得すればいい。そうも思う。でも、スッと落ちてこない。なぜかというと、「頭で考えた落ち」だからだと思う。

 生家でも結婚後も、家庭には恵まれなかった千代。だけど最後に

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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