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コロナ禍中の安心安全な国際イベントとは

エリザベート王妃音楽コンクール、決勝ラウンドへ

栗田路子 ライター、ジャーナリスト

 毎年5月にベルギーの首都ブリュッセルで開催される「エリザベート王妃国際音楽コンクール」は、チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノコンクールと並ぶ、世界三大コンクールの一つと言われる。このコンクールは、ピアノ、バイオリン、チェロ、声楽と、部門が毎年入れ替わるのが特徴だ。

 昨年はピアノ部門だったが、ビデオ選考を通過した74名がベルギーでの本選に臨む直前で、コロナ禍のために延期が決まった。ちょうど東京オリンピックが延期となったように。このコンクールは、今年、徹底的な感染予防策の中で、粛々と進められている。コロナ禍2年目の今、国際イベントを「安心安全に」行うとは、どういうことをいうのだろう。

オーケストラ団員も、客席に陣取った審査員も、マスク着用でソーシャルディスタンスをとっている ©RTBF-VRT

熱気に包まれない戦い

 5月3日、日本人7人を含む58人でスタートした予選は、いよいよ24日から決勝ラウンドに入る。15日深夜に発表された6人のファイナリストには、務川慧悟さん(28歳)と阪田知樹さん(27歳)という二人の日本人ピアニストが残っている。

踊るような繊細な演奏が絶賛される務川慧悟さんは、5月26日に決勝ラウンドに挑む=写真提供 Queen Elisabeth Competition ©Derek Prager
すでに大物アーチストと称される阪田知樹さんのファイナルラウンドは5月25日に=写真提供 Queen Elisabeth Competition ©Derek Prager

 国際的な音楽コンクールに出場する音楽家たちは、オリンピック選手同様、幼少期から長時間の絶え間ない訓練とすさまじい緊張を繰り返してその時を迎える。予選、準決勝、決勝のための恐ろしい数の課題曲と自由曲をベストなコンディションで演奏できるように、何年も前から準備に入り、クライマックスに備える。

 人生にそう何度も巡ってこないチャンス、幼い頃から夢見て鍛えてきた晴れの檜舞台――音楽のオリンピックともいえそうだが、このコンクールは、エントリーには年齢制限があるし、再チャレンジは許されない一度の勝負だ。細心の準備で虎視眈々と準備したベストの状態を一年延期して保ち続けることがいかに難しいかは、昨年予選を通過した74名のうち、16名が参加を辞退したことからもうかがわれる。

 こうして2年越しでベルギーにやってきた若き音楽家は、例年とは全く異なる環境下で約1カ月の戦いを強いられることになった。すべての演奏は無観客で行われ、客席にバラバラに離れて座っているのは、マスクで隠れて表情のわからない審査員たちだけだ。例年は、熱狂的なクラシック音楽ファンで連日満席になる会場は、予選、準決勝、決勝と進むにつれて、演奏者と観客の間にある種の意思疎通ができるようになり、熱気ある一体感のようなものが生まれていくものなのだが、今年はそういった感覚が一切ない。張り詰めた緊張だけがそこにある。

真に参加者のための「安心安全」とは

 コンクールの運営母体は、こんな風に説明する。1年の間に、感染予防策の経験を積み、他国の国際イベントの成功事例から学び、感染症専門の委員会を設置して、緻密な方策を作り、それに沿って丁寧に進めてきたのだと。

 まず、全ての参加者は、ベルギー政府の水際対策(感染予防対策プロトコル)に従って渡航しなければならない。詳細は出発する国の感染状況によって異なるが、日本からの場合は、渡航のための航空機搭乗72時間前までに実施されたPCR検査の陰性証明が必須で、ベルギー到着後速やかに「渡航者追跡フォーム」に連絡先などの詳細を書き込んで当局に提出する。ただちに7日間の検疫隔離に入り、7日目に指定された場所でPCR検査を受けることが義務付けられる。違反すれば250ユーロの罰金で、文書偽造は刑事罰の可能性も

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