栗田路子(くりた・みちこ) ライター、ジャーナリスト
上智大学卒。米国およびベルギーにてMBA取得。EU(欧州連合)主要機関が集まるベルギー・ブリュッセルをベースに、欧州の政治・社会事情(環境、医療、教育、福祉など)を中心に発信。共同通信47News、ハフィントンポストの他、 環境ビジネスや国際商業などのビジネス・業界誌に執筆。同人メディアSpeakUp Oversea’s主宰。共著に『コロナ対策 各国リーダーの通信簿』(光文社新書)。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
エリザベート王妃音楽コンクール、決勝ラウンドへ
毎年5月にベルギーの首都ブリュッセルで開催される「エリザベート王妃国際音楽コンクール」は、チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノコンクールと並ぶ、世界三大コンクールの一つと言われる。このコンクールは、ピアノ、バイオリン、チェロ、声楽と、部門が毎年入れ替わるのが特徴だ。
昨年はピアノ部門だったが、ビデオ選考を通過した74名がベルギーでの本選に臨む直前で、コロナ禍のために延期が決まった。ちょうど東京オリンピックが延期となったように。このコンクールは、今年、徹底的な感染予防策の中で、粛々と進められている。コロナ禍2年目の今、国際イベントを「安心安全に」行うとは、どういうことをいうのだろう。
5月3日、日本人7人を含む58人でスタートした予選は、いよいよ24日から決勝ラウンドに入る。15日深夜に発表された6人のファイナリストには、務川慧悟さん(28歳)と阪田知樹さん(27歳)という二人の日本人ピアニストが残っている。
国際的な音楽コンクールに出場する音楽家たちは、オリンピック選手同様、幼少期から長時間の絶え間ない訓練とすさまじい緊張を繰り返してその時を迎える。予選、準決勝、決勝のための恐ろしい数の課題曲と自由曲をベストなコンディションで演奏できるように、何年も前から準備に入り、クライマックスに備える。
人生にそう何度も巡ってこないチャンス、幼い頃から夢見て鍛えてきた晴れの檜舞台――音楽のオリンピックともいえそうだが、このコンクールは、エントリーには年齢制限があるし、再チャレンジは許されない一度の勝負だ。細心の準備で虎視眈々と準備したベストの状態を一年延期して保ち続けることがいかに難しいかは、昨年予選を通過した74名のうち、16名が参加を辞退したことからもうかがわれる。
こうして2年越しでベルギーにやってきた若き音楽家は、例年とは全く異なる環境下で約1カ月の戦いを強いられることになった。すべての演奏は無観客で行われ、客席にバラバラに離れて座っているのは、マスクで隠れて表情のわからない審査員たちだけだ。例年は、熱狂的なクラシック音楽ファンで連日満席になる会場は、予選、準決勝、決勝と進むにつれて、演奏者と観客の間にある種の意思疎通ができるようになり、熱気ある一体感のようなものが生まれていくものなのだが、今年はそういった感覚が一切ない。張り詰めた緊張だけがそこにある。
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