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二人の「神様」が生みだした英雄神話

【9】「用心棒」の〝原型〟を読んでみた

中川文人 作家

ギャングが牛耳る毒の町

 『血の収穫』は、アメリカのパルプ・マガジン(質のよくない安価な紙を使った大衆向けの雑誌)の一つ、『ブラック・マスク』に1927年11月号から1928年2月号にかけて4回に分けて掲載された。そして、1929年、ニューヨークのクノップ社より、ハメットの長編第一作として刊行された。

 この作品の構造は複雑で、一つの大きな物語の中に四つの物語が組み込まれている。ハメットがそうしたのは、「4回に分けて掲載」することを考えたからだ。『血の収穫』は4回で一つの作品だが、毎回、独立した探偵小説としても楽しめるようにしたのである。

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 物語の舞台はアメリカ合衆国の北西部、カナダと国境を接するモンタナ州の山間地にあるパーソンヴィルである。パーソンヴィルは人口4万人ほどの鉱山町で、長い間、炭鉱会社の社長、エリヒュー・ウィルソンが町の政治と経済の実権を握っていた。が、この物語が始まる頃のパーソンヴィルは、ギャングが牛耳る悪徳の町で、「ポイズンヴィル」(毒の町)と呼ばれていた。

 ギャングを町に招き入れたのは他でもない、エリヒュー・ウィルソンである。炭鉱夫たちの労働組合を潰すためにエリヒューが雇ったギャングたちが、そのまま町に居座ったのだ。

 町の腐敗に憤ったエリヒューの息子ドナルド・ウィルソンは、コンティネンタル探偵社に汚職や犯罪の調査を依頼した。そして、コンティネンタル社はドナルドの要請に応え、身長は5フィート6インチ(約168cm)、体重は190ポンド(約86kg)の中年男をポイズンヴィルに派遣した。この小太りの中年男がこの物語の主人公「コンティネンタル・オプ(operative、調査員の意)」である。

 オプは町に着くとすぐに依頼人であるドナルド・ウィルソンに連絡を入れ、面会の約束を取り付けた。が、ドナルドはオプと会う前に何者かに殺される。息子を殺されたエリヒューは、このままでは自分の身も危ないと思い、オプにギャングの一掃と町の浄化を依頼する。

 これは危険な仕事である。相手はギャングだ。オプも命を狙われるだろう。が、オプはこの仕事を引き受けた。

 オプはこう考えた。ポイズンヴィルを牛耳る悪党は、闇酒屋のピート、質屋のルウ・ヤード、博徒のマックス・ターラー(別名〝ウィスパー〟)、そして、警察署長のジョン・ヌーナンの4人。この4人は共存共栄を決め込み、今は同盟を組んでいるが、悪党同士のこと、信頼関係などあるわけがない。彼らの間に楔を打ち込み、互いの不信感を煽れば、殺し合いが始まるはずだ。そうなったら、その殺し合いを共倒れになるようにもっていけばいい。

 オプはまず警察署長のヌーナンに「ドナルド殺しの犯人はマックス・ターラーのようだ」と吹き込み、署長がターラーを逮捕するように仕向ける。こうしてヌーナンとターラーの関係が悪化すると、この対立にピートやルウ・ヤードも巻き込んでいく。

 こうしてポイズンヴィルではギャング同士の三つ巴、四つ巴の戦いが始まり、町は戦場と化す。オプは何度も銃撃戦に巻き込まれ、オプに協力した女性は命を落とす。が、オプは生き残り、ギャングは全滅し、町は平和を取り戻す。

 先に『血の収穫』は一つの大きな物語の中に四つの物語が組み込まれていると言ったが、「大きな物語」とは「悪の支配する町に怖いもの知らずの男が現れ、悪と悪が殺し合うにように仕向け、全滅させて、町を救う」という物語である。そして、四つの物語とは、ポイズンヴィルで次々と起こる殺人事件や銀行襲撃事件をオプが解決していく探偵物語である。オプはこれらの事件の調査を進めつつ、これらの事件や騒動を利用して悪党どもの対立を煽り、全滅に追い込んでいったのだ。

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筆者

中川文人

中川文人(なかがわ・ふみと) 作家

1964年生まれ。法政大学中退、レニングラード大学中退。著書に『身近な人に「へぇー」と言わせる意外な話1000』(朝日文庫)、『地獄誕生の物語』(以文社)、『ポスト学生運動史』(彩流社)など。本の情報サイト『好書好日』で「ツァラトゥストラの編集会議」の構成担当。総合誌『情況』にてハードボイルド小説「黒ヘル戦記」を連載中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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