2021年05月21日
コロナ禍で苦戦するフランスの映画館(上)――上映再開はしたけれど
コロナ禍で苦戦するフランスの映画館(下)――公的支援は手厚いが……
フランスで「年中無休」と言えば、コンビニではなく映画館。正月やクリスマスでさえ、休み返上で映画ファンを受け入れてきた。ところが、悪夢のコロナ禍到来。たび重なるロックダウンで、その扉は固く閉ざされた。昨年(2020年)のポスターが貼られたままの映画館の前を通るたび、虚しい気持ちに襲われてしまった。だがようやく、トンネルの先に光明が見えてきた。
4月末、政府は外出制限の段階的解除スケジュールの発表に踏み切った。映画館、美術館、劇場などの文化施設、(生活に必要不可欠でないとされる)商店、カフェやレストランなど飲食店のテラスが、5月19日より条件付きで再開が許可された。映画館は感染第2波到来で閉鎖された昨年10月末以来、約6カ月半ぶりの再開に。ひとまず「第3波のピークは超えた」と見なされ、外出制限の解除が決まったのだ。
映画館に関しては、関係者から再開を求める声が非常に強かった。映画館の閉鎖が最初に始まってから1年にあたる3月14日には、パリ独立系映画館団体CPI(Cinémas Indépendants Parisiens)の有志らが、再会を求める会を催している。
とはいえ、フランスはコロナ禍を楽観視できる状況にはほど遠い。ワクチン接種を急ピッチで進めてはいるが、相変わらず変異種の脅威に晒されている。近隣諸国に比べても、5月20日の時点で新規感染者数が欧州トップという厳しい状況にあるのだ。
政府は感染が再び広がった場合、解除に「急ブレーキ」を作動させると明言している。これまで重要な声明は、マクロン大統領のドヤ顔テレビ会見になることが多かった。しかし今回、例外的に少数の地方紙記者を前にした“コソコソインタビュー”で情報を開示した。「氷上」を歩くリスクを自認しているためか、イメージ戦略に血を注ぐ大統領としては、選択を誤って、後から「負のイメージ」が自分に貼り付くのを少しでも回避したいようにも見えた。
ちなみに「急ブレーキ」を作動させる目安は、「新規感染者数が10万人あたり400人以上」「感染者数の急激な増加」「集中治療病床の逼迫状態」である。
制限解除の詳細だが、文化施設に関しては先述の通り5月19日から営業が許可された。そしてこの日から、夜間外出の門限は「19時」から「21時」に変わった。映画館の場合は作品の尺によるが、早めの夜の回(18時30分から19時ごろに最終上映回がスタート)がかろうじて組める時間である。座席収容率は最大35%。これは隣の人と2席分のスペースが空けられる計算だ。
続く文化施設再開の第2段階は6月9日。この日から夜間外出の門限は「21時」から「23時」へとさらに延長。座席収容率も最大65%になる。そしてこのまま「急ブレーキ」が作動しなければ、6月30日に座席収容率の規制は完全に解除される。夜間の外出に門限がなくなるため、レイトショーも問題なく実施できる。
5月上旬、バシュロ文化大臣は映画館における「上映中のマスク着用義務」と「館内におけるポップコーンなどの菓子類販売禁止(屋外は可)」を発表した。実はこの大臣、3月に1回目のワクチン接種後にコロナ感染がわかり、9日間入院をした。そしてこの時、「毎晩これが最後の夜か」と考えるほどの重症化を経験している。衛生対策に厳しい姿勢で取り組みたい気持ちは理解できるのだ。
映画館再開にあたり、衛生対策は重要課題に違いない。しかし、それ以上に映画関係者が頭を悩ませている問題がある。
それは溜まりに溜まった新作映画の数。昨年から続くロックダウンで、その数は400~450本と言われる。それらはほぼコロナ禍前に完成していた作品である。だが、段階的にロックダウンの解除が始まった2020年5月11日から映画製作を許可していたため、新作映画は増える一方だ。コロナ禍真っ只中の2020年でも、(フランスが大半以上を出資する)「仏主導」の映画製作本数は前年比の約8割(2019年は240本、2020年は190本)に踏みとどまった。
さて、劇場再開初日の5月19日には、早速公開作品が約30本も並んだ。2019年の時点で公開作品数は週平均14~15本とすでに飽和状態にあったが、単純計算でその倍のボリュームである。
劇場再開と同時に公開される作品リストの中には、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください