前田和男(まえだ・かずお) 翻訳家・ノンフィクション作家
1947年生まれ。東京大学農学部卒。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『選挙参謀』(太田出版)『民主党政権への伏流』(ポット出版)『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)T・イーグルトン『悪とはなにか』(ビジネス社)など多数。路上観察学会事務局をつとめる。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【37】ジェリー藤尾「遠くへ行きたい」、山口百恵「いい日旅立ち」
この歴史的キャンペーンの企画立案兼仕掛け人は、ディスカバージャパンのパート1と同じく電通の伝説的イベント・プロデューサーの藤岡和賀夫であった。かたや今回のパート2でその藤岡とコンビを組んだのは、CBSソニーで山口百恵や郷ひろみを育てた酒井政利で、これまた後に音楽業界の伝説となるプロデューサーである。
藤岡によると、1978年夏の終りというから、キャンペーン開始のわずか2、3カ月前に、「いい日旅立ち」と書いた紙を酒井に渡して、こう頼んだという。
「百恵も来年は成人式でしょう。どうですか、ここらで新しい路線に挑戦してみる気はありませんか。私が応援しますよ。題はこれを使ってくれると有難いんですが」
怪訝な表情の酒井に藤岡は続けた。
「国鉄のCMソングというふうにはしたくない。百恵の新曲ということで売り出してくれればいいんです。でも、私が必ず追い掛けます。つまり、共通のテーマでの連携プレーと言うわけですよ」
一方の酒井とCBSソニーには、桜田淳子・森昌子との「中三トリオ」から一人抜け出した山口百恵を美空ひばりに次ぐ「国民的歌手」に育てたいという〝野望〟があり、藤岡の提案には強く魅かれたが、最大のハードルは、膨大な赤字を抱える国鉄にはレコード化の制作分担費もなければテレビCMを大量に流す予算もないことだった。藤岡のいう「国鉄のCMソングにしたくない」の裏の意味は、ありていにいえば、「他人のふんどしで(国鉄が)相撲をとる」という国鉄にとって虫のいい