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【公演評】ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』

10周年を迎えた日本オリジナルバージョンが照射した現代社会の闇と一筋の希望

橘涼香 演劇ライター


 メガヒットミュージカルとして愛され続け、日本オリジナルバージョンが10周年を迎えたミュージカル『ロミオ&ジュリエット』が、2021年5月21日東京・TBS赤坂ACTシアターで開幕した(6月13日まで。のち7月3日~11日大阪・梅田芸術劇場メインホール、7月17日~18日名古屋・愛知芸術劇場大ホールで上演)。

 シェイクスピアの不朽の名作をもとに、ジェラール・プレスギュルヴィックの、神が宿ったとしか思えない名曲の数々で綴られたフレンチ・ミュージカルとして2001年に生まれたミュージカル『ロミオ&ジュリエット』は、世界20ヶ国以上で上演を重ね、観客動員600万人を超えるメガヒット作品として喝采を浴び続けている。日本では2010年に宝塚歌劇団星組で初演されて大反響を呼び、2011年「日本オリジナルバージョン」として、宝塚歌劇バージョンと同じ小池修一郎の潤色・演出のもと初上演。以降、新たなキャストの登場の度に大きな話題を振りまきながら上演を重ねてきた。10周年を迎える今回の2021年公演にはロミオ役に黒羽麻璃央と甲斐翔真。ジュリエット役に伊原六花と天翔愛のフレッシュな顔合わせが実現したのをはじめ、多くの新キャストによって現代性を帯びた舞台が展開されている。

原作設定と現代のツールとの不可思議な融合

拡大『ロミオ&ジュリエット』公演から、ロミオ/黒羽麻璃央、ジュリエット/伊原六花=©岡本隆史

 基本的なコンセプトは2017年版から打ち出された「破壊された近未来を思わせる世界の中で繰り広げられる『ロミオ&ジュリエット』」を踏襲している。舞台は代々街の覇権争いを続けているモンタギューとキャピレットという二つの一族があり、貴族社会もあるヴェローナの街。だと言うのに、若者たちは手に手にスマートフォンを持ち、物思いにふけって一人になりたいロミオを、一斉送信のメッセージで探し出そうとしては「既読スルー」を嘆いている。

 両家が唯一共に信頼しているロレンス神父は、パソコンで検索しながらアロマテラピーの研究にいそしみ、一族同志の争いを超えて秘密裡に挙げたはずのロミオとジュリエットの結婚式は、写真に収められ、瞬く間に街中に拡散されていく。この原作設定と現代のツールとの一種奇妙な融合は、プログラムのSTORY解説に書かれた「時の流れからはみ出したような不可思議な近未来の街ヴェローナ」そのものだ。

 振り返れば2011年の日本版オリジナルバージョン誕生から、この不可思議な設定は現代のツールを持ち込んだからこそのマイナーチェンジは繰り返しながらも、固く守られていて、忌憚なく言うならこれまでの上演では、そのことがどこかに違和感を残していたものだった。元々恋愛ドラマを盛り上げるのに不可欠なのは、愛し合う二人の間に横たわる大きな障害で、それは時代によって身分の違い、人種の違い、既に互いが別の誰かと婚姻関係を結んでいる、同性である等々の変遷を経ながら、数々の優れた恋愛ドラマを生み出すことに寄与してきた。シェイクスピアの『ロミオ&ジュリエット』は、その本流とも言える作品で、代々憎み合い争い合う両家という設定も、離れるくらいなら死を選ぶとまで思い合う二人が共に出奔する道は選べないことも、ましてや、少女が一人で小瓶を飲み干して24時間仮死状態になる「秘薬」の存在といった、物語を盛り上げる全ての道具立ては、14世紀のイタリアだからこそ成り立つと思えるものだった。

 この作品から着想された不朽の傑作ミュージカル『ウエストサイド・ストーリー』のように、設定の全てを現代に置き換えるのではなく、そんな原作の設定はほぼ残したままで、どれほど離れていてもすぐに連絡が取れる現代のツールが作品に持ち込まれることには、その為の様々な工夫が凝らされていることは十分わかった上で、やはり喉に刺さった小骨のような感覚が拭えなかった。代々のキャストや、楽曲の持つ大きな魅力がそれを凌駕し、どの公演も人一倍楽しんで観続けてきて尚、底辺に残る不協和音もまた常に感じていたというのが正直なところだ。

現代が生み出した断絶のリアル

拡大『ロミオ&ジュリエット』公演から=©岡本隆史

 だが、今回そのある種の違和感が雲散霧消して、若者たちがスマートフォンを手にしていても、キャピュレット家にエレベーターがあっても、ロレンス神父がパソコンを操っていても、防げなかった断絶と悲劇が胸に迫ってくることに驚愕を覚えた。それは心が震える感動と共にある、眩暈を覚えるような絶望感だった。目の前で繰り広げられている両家の争いが、2021年の今、この現代のどこで起こっても不思議ではないものに、非常に現実感を持った闘いに見えたからだ。

 もちろんひとつには、一気に若返ったメインキャストが醸し出す如何にもロックな雰囲気が、代々続く両家の争いを、旗頭を得て徒党を組んだ若者同士の抗争にストンと落とし込んで見せる、良い意味のヤンチャさを生み出したことがある。これはミュージカル『ロミオ&ジュリエット』が、10周年5回目という上演を重ね、ここから羽ばたいていった城田優、山崎育三郎、古川雄大、柿澤勇人、大野拓朗、昆夏美、フランク莉奈、清水くるみ、生田絵梨花、木下晴香、葵わかなをはじめとした、綺羅星の如く続く歴代キャストの面々が放つ、現在のミュージカル界で発揮している存在感が、作品を「ミュージカル界の登竜門」的位置づけに押し上げていったからこその効果に他ならない。

 だがもうひとつ、この作品が描く大人たちの争いが若者たちに受け継がれていく、謂わば故なき憎しみの連鎖、理屈抜きに植え付けられる敵愾心とそれによる分断が、いまどこにでも起こり得るだろうリアルを伴っていることに慄然とした。それほどこの作品が現代社会の闇を照射する様は衝撃的で、新型コロナ禍の脅威に覆われた世界が転がり落ちていく、その行く先に恐怖を覚えた。まさかこんな形で作品と世界が融合するなどとは思ってもみなかった。2011年から一貫して、現代のツールを持った『ロミオ&ジュリエット』に拘り続けた小池修一郎には、こんな世界の暗雲が見えていたのだろうか。もしそうだとするなら、やはり天才というのは恐懼すべき存在だと心底思う。

愛による再生を輝かせた新キャスト

拡大『ロミオ&ジュリエット』公演から、ロミオ/黒羽麻璃央=©岡本隆史

 だがだからこそ、この作品のどうしようもないもどかしさ、あまりにも大きな犠牲を経て、人々が和解に至る。人は愛によって、死をも乗り越えて生き続けていくというテーマ。愛による再生のラストがもたらす一筋の希望もまた、現代に通じるものなのだと信じたい。この作品の最後に「死」は愛によって敗北するのだ。ならばコロナ禍に立ち向かう人類が、自分さえよければの境地を乗り越え、愛によって互いに手を取れる明日も、きっとあるに違いない。少なくともそう信じ続けることで、希望は決して潰えはしない。2021年版『ロミオ&ジュリエット』が現代に浮かびあがらせたそのことが、作品を今だからこそ観るべきものとして輝かせている。

 そんな2021版『ロミオとジュリエット』には、新鮮で魅力的なキャストが揃った。

◆公演情報◆
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
東京:2021年5月21日(金)~6月13日(日)  TBS赤坂ACTシアター
大阪:2021年7月3日(土)~7月11日(日)  梅田芸術劇場メインホール
名古屋:2021年7月17日(土)~7月18日(日)  愛知県芸術劇場 大ホール
公式ホームページ
公式twitter
公式YouTube
[スタッフ]
原作:ウィリアム・シェイクスピア
作:ジェラール・プレスギュルヴィック
潤色・演出:小池修一郎(宝塚歌劇団)
[出演]
黒羽麻璃央/甲斐翔真(Wキャスト)、伊原六花/天翔愛(Wキャスト)、味方良介/前田公輝(Wキャスト)、新里宏太/大久保祥太郎(Wキャスト)、立石俊樹/吉田広大(Wキャスト)、
春野寿美礼、原田薫、石井一孝、宮川浩、秋園美緒、兼崎健太郎、岡幸二郎、松村雄基
小㞍健太/堀内將平(Kバレエカンパニー)(Wキャスト) ほか
 
★黒羽麻璃央&甲斐翔真のロミオ対談はこちら
★立石俊樹&吉田広大のティボルト対談はこちら

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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