コロナ禍の陰鬱さの中で、記録破りの話題をさらい社会現象ともなった『鬼滅の刃』は、出版界全体の売り上げ増にも大きく貢献した。出版科学研究所によると、昨年(2020年)の出版総売り上げは前年比4.8%増の約1兆6168億円。いわゆるコロナ禍での巣ごもり需要もあって、コミックスの紙版はマンガ誌込みで13・4%増の約2706億円、電子版は31.9%増の約3420億円。合計約6126億円で、1978年の統計開始以来過去最大の市場規模となり、出版全体に占めるマンガの割合は約38%を占めるまでになった。

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半世紀前までは俗悪文化の代名詞のように蔑まされ、悪書追放の対象にさえされたマンガが、出版総売り上げの4割近くを占め、しかも世界中に浸透している現状をだれが予測しただろうか。昨年12月に完結した、ちくま文庫版の『現代マンガ選集』(全8冊)からは、今日の隆盛に至るまでに時代と格闘した作家たちの過激で衝撃的な冒険の軌跡が圧倒的なパワーで迫ってくる。
この選集の発端は、四方田犬彦/中条省平編『1968[3]漫画』(筑摩書房、2018年)だ。同書は、四方田ほか編著による『1968[1]文化』『1968[2]文学』の3冊目で、1968年から72年までに発表された24編のラディカルで衝撃的な作品群を提示して見せた。中条省平が総監修の『現代マンガ選集』は、この延長上に企画されたといってもよい。
[書評]『1968[3]漫画』