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杜けあきインタビュー/下

「作曲家・寺田瀧雄」は天才であると同時に職人だった

橘涼香 演劇ライター


杜けあきインタビュー/上

音程をしっかり取って歌うことは作曲家の先生への礼儀だなと

──ショーの楽曲も盛りだくさんに?

 今回取り上げられているものには、私が宝塚に入団するより以前の曲や、雪組のトップスター時代の『パラダイス・トロピカーナ』や『スイート・タイフーン』もあるのですが、どの曲もタイプが違うんです。軽快で楽しい曲、ラテン系のエキゾチックで熱い曲、また大空に羽ばたいていくような大きな曲もあります。寺田先生のことを「天才」だと申し上げましたし、間違いなく天才なのですが、一方で先生がいつもご自分のことを「職人だ」とおっしゃっていた、その職人芸も確かに感じます。それくらい幅広いジャンルの曲をお書きになっていて、どれもが素晴らしいので、その多彩な魅力も存分に感じていただけると思います。

──宝塚歌劇のあれだけ多岐に渡る作品それぞれに曲を書かれている訳ですものね。

 それはもう大変なことだと思います。

拡大杜けあき=岩田えり 撮影

──そんな寺田先生と創作現場をご一緒されていた中で、心に残るエピソードなどはありますか?

 先生は作曲だけでなく歌唱指導もしてくださっていたんです。宝塚音楽学校でもカンツォーネやポピュラーを歌う授業を受け持ってくださっていて、私は先生とは密度の濃い時間をご一緒させていただけたという印象があります。やはり入団してから下級生時代はWトリオ(※宝塚作品の最後を飾る大階段のパレードシーンで、上手下手端に位置しそれぞれコーラスを担当する二組のトリオ)からはじまって、歌で抜擢していただくことが多かったので、下級生の頃から可愛がっていただきました。ご指導は厳しかったですが、とても愛情深くて、ウィットにも富んだ先生でしたので、歌稽古は緊張もしましたけれども楽しかったですね。ご自分で歌って聞かせてくださるというタイプの指導法ではないのですが、こう歌ってと言われる時の例えがとても巧みでわかりやすかったです。あとは心に残るエピソードと言うと、結構有名な話なんですが良いですか?

──もちろんです!

 まだ下級生の時の歌稽古で先生が「歌とはなにか?」と突然おっしゃられたんですよ。しかも「カリンチョ!(杜の愛称)」と当てられてしまったので、私はスックと立って、「歌は心です!」と言ったんです。めちゃめちゃハキハキと自信たっぷりに。そうしたら「違う!歌は音程や!」と(笑)。これはもう結構伝説のように言われている話なんですけど、今になってみるとその深さがわかるようになりました。音程がちゃんと取れるのは歌い手にとって当たり前のことですが、一方で確実に音程を取るというのは難しいことでもあります。難易度の高い曲になると特にそうで。ですからまずは100%に限りなく近いところまで音程を取る努力をした上で、心を込めるものなんだと。その大切さは今の方がよくわかりますし、音程をしっかり取って歌うことは作曲家の先生への礼儀だなと。

──あぁ、なるほど!

 まず譜面通りきっちり歌えることは、一番に持たなければならない先生への礼儀です。もちろんそこから歌い込んで、歌い込んで自分の個性で崩していくことはありますし、先生も「あ、その方がええな」と認めてくださることもたくさんありました。でもやはりまず譜面通りに歌えるようにということは、すごく大切な教えだったなと。特に宝塚音楽学校、宝塚歌劇団でその基本が守られているのは、とても「清く、正しく、美しい」ことだと思っています。

3分間で困難な現実を忘れさせる歌の力を確信している

拡大杜けあき=岩田えり 撮影

──それは杜さんがいま歌い続けていらっしゃる中でも大切にしていることですか?

 大切にしていますし、努力もしています。やっぱり歌って難しいので。昔、歌うことが楽しくて、楽しくて、少しも難しいと思っていなかった頃が懐かしいと思うくらい、歌えば歌うほど「歌」って難しいなと思う今日この頃なので。

──杜さんほどの歌唱力がある方でもそんな風に思われるのですか?

 そんなことないです!心だけで歌ってきたので!(笑)

──とんでもない!忘れられない歌がどれほどあることか!

 ありがとうございます。でも本当に歌は奥が深いので、大切な教えとしていつも心に置いていますね。

──昨年来コロナ禍によって非常に厳しい状況が続いている中で、杜さんはOGの方達に呼びかけた動画の「すみれプロジェクト」を立ち上げるなどの発信をされていますが、歌が伝えるもの、歌の力についてどう感じていらっしゃいますか?

 去年の春に、同期生と一緒に宝塚OGで「すみれの花咲く頃」を歌い継いでいく「すみれプロジェクト」を立ち上げて、私が直接には存じ上げていなかった下級生にまでつながっていき、多くの人が参加してくれました。この歌を届けたいと思ったきっかけには、もともと東日本大震災の時の経験がありました。当時私はボランティアで色々な体育館などを訪れていたのですが、皆さんが「歌って、歌って」とリクエストしてくださって。私自身は炊き出しなどのお手伝いに行ったので、もちろん音源なども持っていませんし、働く為の恰好をしていたのですが、あまりにも多くのお声をいただいたので「私は宝塚出身なので『すみれの花咲く頃』を歌います」と言ってアカペラで歌ったんです。

◆公演情報◆
『寺田瀧雄没後20年メモリアルコンサートAll His Dreams“愛”』
【大阪公演】
2021年6月26日(土)18:00・27日(日)12:00/17:00
梅田芸術劇場メインホール
【東京公演】
2021年7月1日(木)18:30・2日(金)12:00/17:00
Bunkamura オーチャードホール
公式ホームページ
[スタッフ]
監修:植田紳爾
構成・演出:三木章雄
[出演]
初風諄 榛名由梨 鳳 蘭 汀夏子 安奈淳 瀬戸内美八 髙汐巴 寿ひずる 平みち 剣 幸 日向薫 杜けあき 安寿ミラ 涼風真世 麻路さき 真琴つばさ 白城あやか 湖月わたる 月影瞳 朝海ひかる ほか
〈宝塚歌劇団〉轟悠 ※大阪のみ
※公演によって出演者が異なります。詳細はホームページのキャストスケジュールをご確認ください。
 
〈杜けあきプロフィル〉
 65期生として宝塚歌劇団に入団、翌年に雪組に配属。1988年雪組トップスターに就任。1993年『忠臣蔵〜花に散り雪に散り〜』で退団。バウホール公演『ヴァレンチノ』と『忠臣蔵』で1992年度菊田一夫演劇賞の演劇賞を受賞。退団後は女優として舞台や映像に多数出演し、活躍を続けている。
オフィシャルサイト

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筆者

橘涼香

橘涼香(たちばな・すずか) 演劇ライター

埼玉県生まれ。音楽大学ピアノ専攻出身でピアノ講師を務めながら、幼い頃からどっぷりハマっていた演劇愛を書き綴ったレビュー投稿が採用されたのをきっかけに演劇ライターに。途中今はなきパレット文庫の新人賞に引っかかり、小説書きに方向転換するも鬱病を発症して頓挫。長いブランクを経て社会復帰できたのは一重に演劇が、ライブの素晴らしさが力をくれた故。今はそんなライブ全般の楽しさ、素晴らしさを一人でも多くの方にお伝えしたい!との想いで公演レビュー、キャストインタビュー等を執筆している。

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