“プロ”になるべきはむしろマスメディアのほうだ
2021年06月08日
大坂なおみ選手が、アスリートのメンタルヘルスを無視した記者会見について抗議を示すため、全仏オープンの会見出席を拒否したところ、大会側から罰金を科されて、棄権した問題が、世界中で大きな話題になっています。
様々なアスリートや著名人から世界規模で共感・連帯の声が上がり、NIKE等のスポンサーも支持を表明しています。ですが、大坂選手の“母国”であるはずの日本における報道では、当初そのような声はあまり聞こえず、むしろ「プロフェッショナルではない」「わがままだ」といった非難のほうが目立っていました。
また、同放送でMCを務める宮根誠司氏も、「大坂選手って、僕もインタビューしたことあって、とてもキュートでかわいらしい人なんですけど」「ある意味、タフな質問をかわすってことが彼女はまだできない人かも知れないですよね」と、まるで子供扱いするような発言をしていました(2021年5月31日、スポーツ報知)。
このような発言がマスメディアで繰り返されるばかりではなく、スポーツニュース等で肯定的に再拡散され、結果的にマスメディア側を擁護する報道が多くを占めています。こうした現状を見ると、大坂選手が記者会見を嫌がるのは、むしろ当然のことだろうという思いが強くなります。
試合をきちんと見ていない、その競技に詳しくないジャーナリストに質問される、敗者の傷に塩を塗るような無慈悲な質問をされる、同じような質問が繰り返される、試合とは関係のないプライベートな質問が頻繁に飛ばされる等、アスリートの記者会見には様々な改善すべき問題があるはずです。
それなのに、「自分たちマスメディアが改善しなければならない問題点はどこだろうか」と自省せず、「タフな質問」といったような言葉で自分たち側の問題を矮小化・透明化し、会見を拒否するほうに問題があるかのように捉えているわけです。
上司やクライアントがハラスメントをしてきたのに、それに耐えかねて「やめてください!」と言うと、「おいおい、それくらいのことで何怒っているんだ。まだまだお前も甘ちゃんだな。これくらいうまくかわせるようにならないと、社会人としてやっていけないぞ」と脅すハラスメントおじさんと同じようなものでしょう。
また、会社のハラスメント体質に順応してしまった先輩社員のように、記者会見における問題点は認識していながらも、「それでもメリットがあるのだから、選手を続けたいなら受け入れるべき」という態度を示す著名人も数多くいました。
たとえば、歌手で俳優の黒沢年雄氏は、「大坂なおみ選手は…年間60億円を稼ぐ有名人! スターの宿命である…」とブログで発信していました。キャスターの小倉智昭氏も、6月1日放送の「辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!」(ニッポン放送)で、「プロテニスプレーヤーとしてお金を稼いでいる立場から考えると、ある程度は妥協しなければいけない部分もある」と発言しています(2021年6月2日、ニッポン放送 NEWS ONLINE)。
ですが、稼いでいる選手だからといって、
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