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「性犯罪に関する刑事法検討会」報告書に失望した──軽視された世論の動向

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 2017年、110年ぶりに刑法の性犯罪条項が改定された。その要点は次のとおりである。

・性犯罪を被害者の告訴がなくても起訴できる非親告罪とした
・その法定刑を引き上げた
・親等の「監護者」による性虐待を、暴行・脅迫要件なしに処罰化する条文を設けた
・性犯罪の対象を(膣への)性交を含む広義の性交とし(「強制性交等罪」の新設)、被害者を男女両性に広げた

 これは画期的だったが、積み残した問題も多い。それを問うために、2020年春に「性犯罪に関する刑事法検討会」が設置され、およそ1年をかけて検討が行われた。

「検討会」報告書の大きな問題

 そして本年5月21日に報告書が出された。だが、被害者・支援者等の切実な改正要求は活かされなかった。

(1) 現在13歳とされるいわゆる「性交同意年齢」(つまり暴行・脅迫要件をみたさずとも強かん罪等が成立する年齢)は、そのまますえ置かれた
(2) 指導的・支配的な地位・関係性を利用した、未成年者に対する性犯罪類型は、設けられなかった
(3) 強かん罪の構成要件である「暴行・脅迫」を廃して新たに「不同意」を構成要件とし、「強制性交等罪」を「不同意性交等罪」に代えるという提案は活かされなかった、等(他にもあるが、字数の都合上略す)

性行為の「同意」などを訴える「フラワーデモ」は全国各地でおこなわれている「同意のない性交」を性犯罪に、と訴える「フラワーデモ」は全国各地でおこなわれるようになった

 この間、ことに性行為・性交時の「同意」の重要性を訴える世論が、盛り上がった。各地で開催される「フラワーデモ」や性被害当事者団体の運動はもちろん、日本学術会議やNGO「ヒューマンライツ・ナウ」の提言なども、それを訴える。

 だが報告書は、そうした世論の動向を満足に反映しなかったのである。

関係性に基づく性犯罪・性交同意年齢問題

 (1)「性交同意年齢」は13歳にすえ置かれた。つまり日本では、中学1-2年生以上については、性的人格権を無条件に保護する体制はないということである。だが世界的に見てこれは問題である(近年、同年齢を引き上げる傾向が高い)。

 そもそも「性交同意年齢」を13歳とすべき積極的な理由はない。

 一般に中学生(13歳は中学1-2年生)の生活範囲は、小学生ほどではないとしても依然として狭い。その限りその社会的な視野も狭く、また判断能力も低い。一方、高校生(15-16歳以上)では行動範囲は広くなり、所属コミュニティは中学卒業以前と大きく異なり、それを契機にして視野・判断能力──性的自己決定能力を含め──は全般に高まる傾向がある。それゆえ「性交同意年齢」を例えば15-16歳とすることに合理性がある(杉田「強制性交等罪の法定刑と性交同意年齢を引き上げよ」)。

 これに対し、同年齢を引き上げると、それに満たない年齢の男女が性交を行ったとき双方ともに犯罪者とされてしまう、という反論が出され、満足な検討がなされないまま問題は先送りされた。

 だが性交が犯罪視されるのは、

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