青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト
1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
前稿はこちら→「萩尾望都『一度きりの大泉の話』が書きたかったのは竹宮惠子のことではなく」
「私に竹宮惠子さんのことを訊かれても言いたくありません、そのことをわかってください、わかってもらうためにはしょうがないから1回だけ、その理由を書きます、ということで、もう一切何も言いませんよ。いいですね」
萩尾望都の『一度きりの大泉の話』(河出書房新社)、この、美しいエドガー(『ポーの一族』の主人公の吸血鬼の美少年)のカバーの分厚い本は、一種の「回状」だ。
そういえば、それまでだって萩尾望都は竹宮惠子のことは話題にしない人だったが、竹宮さんの自伝『少年の名はジルベール』(小学館)が出てから「“伝説の”大泉サロン」についてドラマ化したいとかドキュメンタリー番組にしたいとか、いろんな企画がワッと持ち上がり、萩尾さんのところにもそういうオファーやらインタビュー申し込みやらが来た。断っても断ってもいつまでもそれが続くのですっかり疲れ果てて「皆さん、これ読んでください、これ読めば私が、竹宮さんにまつわることに口を閉ざす理由もわかるでしょう」と知ってもらうために書いたのである、『一度きりの大泉の話』は。ほんとに、それだけ。
『11人いる!』を読んだ時も「すげえな」と思ったがこれを読んだあとはもっと「すげえな……」と思った。やはり萩尾望都は常人ではない。竹宮さんを含む「ふつうの人」とはちがうのだ。天才の所業である。
私がこの本を読んで最初に思ったのは、「天才は恐ろしい」だった。