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天才・萩尾望都の恐ろしさを思い知らされる『一度きりの大泉の話』

青木るえか エッセイスト

萩尾望都のものすごい破壊力

特別展「萩尾望都SF原画展 宇宙にあそび、異世界にはばたく」の会場=2019年9月6日午後2時39分、山梨県立美術館201909拡大特別展「萩尾望都SF原画展 宇宙にあそび、異世界にはばたく」=2019年9月、山梨県立美術館
 今、手元にある『一度きりの~』をパラパラとめくっただけで、「天才ゆえの恐ろしい発言」が出てくる。たとえば、竹宮惠子とまだ接触があった頃の思い出話で、竹宮惠子のマンガを読んだとき、

 「私も楽しく読ませてもらいましたが、主人公が急に友人の首を絞めて殺そうとするシーンがあり、そこがよくわかりませんでした」(p.60)

 という。萩尾さんには殺人に見えるのに、竹宮さんに「これが愛なのよ」と説明されて、

 「う~ん? 私にはわからないけど、深遠なものがあるのだなあ、やっぱり私には複雑すぎて無理だなあ、と思いました」(同)

 こうですよ。

 もし私が竹宮惠子なら「この人、ホントにわかんないの? もしかしてバカ?」と一瞬勝ち誇ったあと、「え、もしかしたら私のことをバカにしてるのか」と思い、次には「この人はほんとうにそう思っているのだ……そんな人があんなマンガを描けるのだ……」ということに気づき、打ちのめされてしまうだろう。

 自分を恃(たの)む気持ちがあればあるほど、萩尾望都の存在はものすごい破壊力なのだ。

 自分で磨きぬいた鎧と剣を身につけて、颯爽と立っているつもりでいるところに、ふだん着にサンダルつっかけてヒョコヒョコやってきた友人が、ただニコニコしているだけで、たくさんの人民がひれ伏していく……そういう状態である。

 「私は「ごめんね。やっぱり、男の子同士のなにがいいのか、わからない」と言って謝りました」(p.58)

 こう書いてしまう人が、『トーマの心臓』や『ポーの一族』を描くわけですよ。

『ポーの一族』(1972年)のお気に入りの場面の前に立つ萩尾望都さん=2019年7月、東京・銀座の「萩尾望都 ポーの一族展」拡大『ポーの一族』(1972年)のお気に入りの場面の前に立つ萩尾望都さん=2019年7月、東京・銀座の「萩尾望都 ポーの一族展」

 そりゃ竹宮惠子としては、「私のものを見て盗まないで」という気持ちにもなるだろう。いや、そんなこと以上に、

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筆者

青木るえか

青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト

1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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