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「初音ミクに出逢う人生だった」〜奇跡の3カ月(3)「みくみくにしてあげる♪」誕生とその後の物語

メガヒットの舞台裏で

丹治吉順 朝日新聞記者

「試しに」「ワンチャン」くらいのつもりだった

そして、いささか驚くようなことを打ち明ける。

「当時、歌ものは1コーラスしか作ったことがなく、『みくみくにしてあげる♪』はあくまでも試しに、という気持ちでした」

「OSTER projectさんは私と同年代なのですが、彼女の『恋スルVOC@LOID』が発表されたころから、遠からず私の技術では見向きもされなくなるだろうとも考えました。でも、今ならまだワンチャン聴いてもらえるかもしれない。そう思ったのです」

たしかに「恋スルVOC@LOID」の楽曲としての完成度は、伴奏部分も含めて高かった。鶴田さんもまた、「恋スルVOC@LOID」の影響を、azumaさんとは別の意味で受けていたのかもしれない。

実際、「みくみくにしてあげる♪」は再生時間約1分半、1コーラスに加えてサビが繰り返される事実上のショートバージョンともいえる。

投稿初日で11万再生、コメント弾幕のお祭り騒ぎ

「あくまでも試しに」「ワンチャン聴いてもらえるかも」というささやかな思いから投稿した「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」。だが、視聴者はこれを熱狂的に迎えた。

この曲の再生数は、投稿した9月20日のうちに11万回を超えた。サビの「みっくみくにしてあげる」の箇所では、視聴者たちがこぞって歌詞と同じコメントを投稿して唱和、画面はこの言葉で埋め尽くされた。鶴田さんの考え通り、「君」を自分のことと感じたのか。視聴者たちが盛り上げる文字通りのお祭り騒ぎ。2021年6月時点での総再生数は約1550万回、ニコニコ動画の初音ミクオリジナル曲として今もトップに君臨している。

「みくみくにしてあげる♪」が投稿された2007年9月20日23時59分時点の投稿者コメント。視聴者たちがサビを大唱和している拡大「みくみくにしてあげる♪」が投稿された2007年9月20日23時59分時点の投稿者コメント。視聴者たちがサビを大唱和している

鶴田さんにインスピレーションのように降ってきた「みっくみくにしてあげる」というフレーズ。それが、ニコニコ動画での初音ミク史上最大のヒットになり、その後の初音ミクの躍進を決定づける推進力にもなった。

フルバージョン「みんなみくみくにしてあげる♪」の背景

「みくみくにしてあげる♪」のフルバージョン「みんなみくみくにしてあげる♪」は2009年、鶴田さんが強い影響を受けていた音楽ユニットMOSAIC.WAVとの共作アルバム「Heartsnative」に収録された。このアルバムでは、MOSAIC.WAVのボーカルみ〜こさんと初音ミクのデュエットになっている。

2012年の「Heartsnative2」では、初音ミクのソロ音声で「みんなみくみくにしてあげる♪」が改めて収録された。5年がかりの初音ミクによるフルバージョンの登場だった。

【初音ミク】みんなみくみくにしてあげる♪【してやんよ】

これについての質問に、鶴田さんは次のような回答を寄せた。

「正直なところ、私が関わったのはDメロくらいで、あまり関与していませんでした。追加された歌詞には全く関与していません。これは良く言えば私の限界、悪く言えば私が諦めた結果だと思います」

「当時抱えていた問題として『みくみくにしてあげる♪』のフルバージョンを作るべきか否かというものがありました。これまでの音楽経験から、あの長さで十分満足できる私がいる一方で、やはり歌ものを作るのであればフルバージョンであってこそ完成形なんじゃないかという葛藤です。歌の2番、3番やDメロとは何なのか、間奏とは何なのかという疑問を覚えたのもこの頃からで、未だに結論は出ていません」

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筆者

丹治吉順

丹治吉順(たんじよしのぶ) 朝日新聞記者

1987年入社。東京・西部本社学芸部、アエラ編集部、ASAHIパソコン編集部、be編集部などを経て、現在、オピニオン編集部・論座編集部。機能不全家庭(児童虐待)、ITを主に取材。「文化・暮らし・若者」と「技術」の関係に関心を持つ。現在追跡中の主な技術ジャンルは、AI、VR/AR、5Gなど。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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