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考え続ける、舞台の上で――コロナ禍と「高校演劇」〈3〉完

より鮮明になったジェンダーギャップ、制約の中の表現とは

工藤千夏 劇作家、演出家

 現代社会を映し出す高校演劇の現状を工藤千夏さんがつづる最終回です。コロナ禍の中で生活や部活動を制約された高校生たちの行き場のない思いは、舞台にどう表出されているのでしょうか。
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コロナがあぶり出した問題に向き合う

 コロナ禍は、新しい問題を生むだけでなく、人類がすでに抱えていたさまざまな問題も、否応なしにあぶり出す。

 2020年3月「春フェス」北九州大会の大トリを飾った『見えない女子の悩み』(東京都立千早高校、原案:森岡水蓮、脚本:木原幸乃・松原琴音・神田朱=生徒創作)は、もし、新型コロナウィルスが蔓延していないときに創られたなら、台詞のディテールは違うものとなり、ジェンダー・ギャップを描いた名作という位置付けになっていただろう。

 だが、アンコンシャス・バイアスの視点で社会を捉えようとしたとき、そこにコロナもあった。千早高校演劇部員たちが見据えた現実は、カリカチュアされた架空の高校生たちの本音として再構築される。

 2021年1月7日に発出された2度目の緊急事態宣言は、3月21日まで延長された。都立高校の生徒である彼らは、2021年3月末という時期に東京から、遠く離れた北九州での「春フェス」に参加できるかどうか、実際に多くの障害にぶち当たった。上演にこぎつけるまでの困難も台詞に取り入れた。コロナ、ジェンダー・ギャップ、どちらも一筋縄ではいかない問題を、決して声高に叫ぶことなく、飄々と演じてみせる、その微風を装った強風に吹かれて、久しぶりのリアル上演に酔っていた私たち観客は、コロナがはびこる現実世界に引き戻された。

東京都立千早高校『見えない女子の悩み』(彌冨公成撮影、高校演劇協議会全国事務局提供)

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 『2020年のマーチ』(岩手県立千厩〈せんまや〉高校、作:千厩高校演劇部=生徒創作、劇作指導:小堀陽平)は、シェアハウスに暮らす若い女性4人の人間関係を描いている。

 16歳、17歳の女子高生が、20代中頃の女性を演じる。実は、これは、老人や子供、等身大の高校生役を演じるより難しい。千厩高校演劇部の俳優たちは、無理に20代らしく見せようとせず、ただ単にその人物らしく感情を表現することで4人の関係性を緻密に構築した。

岩手県立千厩高校『2020年のマーチ』(彌冨公成撮影、高校演劇協議会全国事務局提供 )

 私は東北大会と「春フェス」の2回、この作品を観劇した。

 筋立ても設定も何も知らなかった初見では、新型コロナウィルスの感染が拡大した初期の状況を、繊細に切り取った芝居であると受け取った。2回目の観劇を終えると、そもそも社会的地位の不安定な若い女性たちが、個として生きる生きづらさが、「コロナ」感染拡大の影響によって鮮明になる芝居だという風に、見方が変わった。

 コロナとは全く関係ない古い日本映画の台詞が最後に流れるのだが、それが観る者を強く刺す。「拍手をしてください」「私たちを祝福してください」。古めかしい台詞回しの映画女優のあの声が、登場人物たちの願いであり、どんな困難があっても生き続けるために必要な「希望」を渇望する声だと感じた。

この時間をリアルに生きて

 『19-Blues』(久留米大学附設高校、顧問・生徒創作:久留米大学附設高校演劇部・岡崎賢一郎)は、タイトルの19という数字を見ただけで、コロナを想起させられる。実際、タイトルどおり、COVID-19の影響を受けながら高校を卒業した19歳の若者たちを描く作品だ。

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