2021年06月23日
著名人のメンタルヘルス不全告白が続いている。
大きな注目を集めたのは、テニスの大坂なおみ選手の“うつ”の告白だ。大坂選手は全仏オープン開幕3日前の5月27日、記者会見に参加しない意向を表明した。そして、1回戦に勝利した後、会見を拒絶。主催者側から日本円にして約165万円の罰金を課せられ、2回戦以降を棄権した。
会見拒否の時点では「大会が選手のメンタルな状態を無視しているから」とだけ述べた大坂選手だったが、大会の棄権を公表する際、ツイッターで自身のメンタルヘルス不全を告白した。以下は該当する箇所を筆者が和訳したものだ。
「2018年の全米オープン以降、実は私は長いあいだ“うつの状態”(原文:bouts of depression)に悩まされており、それとのつき合いに苦労してきました」
「私は、もともとみなさんの前で話すのが得意ではないし、世界のメディアに向かって話す前には巨大な不安の波に襲われます」
そして、全仏オープンに参加するためパリに来た時点で、すでにおびえや不安に襲われており、自分をケアするためにも会見は避けた方がよい、と判断したと述べている。
大坂選手の“うつの状態”が、どの程度のものなのか、実際に医療的なケアを受けているのか否かなどは明らかにされていないが、なんらかのメンタルヘルス不全状態に陥っていたことは明らかだろう。
誰もがこのニュースを見て、驚きを禁じえなかったと思う。大坂選手といえば、コート上の力強いプレーだけではなく、BLM(ブラック・ライブズ・マター)の運動に賛同してこれまで犠牲になった黒人の名前をプリントしたマスクを日替わりでつけて会場に現れるなど、「心身ともにタフ」と思われていたからだ。競技において卓越しているだけではなく、ひとりの社会人、ひとりの女性として自分の意思をはっきり表明する態度は、新しい時代のロールモデルともされてきた。だからこそ、「私は不安の波に襲われてきた」「長いあいだ“うつ”に苦しめられてきた」という告白は衝撃的であった。
実は今年になって、著名人のこのような告白や休業宣言が続いている。
まず1月2日には、ロックバンドX JAPANのYOSHIKI氏が、自身のInstagramで「いつも応援ありがとう。実は去年、少し鬱になっていて、LAで医師から治療を受けていた」と明らかにしたのだ。YOSHIKI氏は、「でも人前では、みんなのためにも“微笑む”、と決めていた。それが効いているみたい。人を助けることによって、自分も助けられる。今年は素敵な年にしよう、そして笑顔を忘れずに!」と現在は回復に向かっていることをつけ加えたが、昨年大晦日にもNHK紅白歌合戦に出演するなどマイペースで音楽活動を続けていると思われていただけに、驚いた人も多かったであろう。
そしてこの5月26日には、女優の深田恭子氏の所属事務所から芸能活動の休止が公表された。その文章にはこうあった。
深田氏も7月から地上波の連続ドラマに出演することが決まっており、この発表直前のイベントでもいつもと変わらない笑顔を見せていただけに、誰もが意外と感じたのではないか。
さらに6月16日と19日には、元プロ野球選手の清原和博氏が自身の YouTube に「うつ病に悩む全ての人達へ60分の激白」と題した動画を投稿した。そこで清原氏は「2016年ごろからうつ病を患っている」と告白。「自分の場合はもともとその気があった」が、覚醒剤取締法違反による2016年の逮捕で生活環境が激変したことをきっかけに深刻な状態に陥り、薬物療法を受けるに至った、と経緯を語った。
そして、うつ病との闘病や治療は現在も続いており、この5月にも「一気にドンと落ちていった」など病状はまだまだ不安定であることや、ふたりの息子が野球をやっていることで「自分も頑張らなきゃアカンな」と励まされていることなどについても明らかにしたのだ。
大坂なおみ選手、YOSHIKI氏、深田恭子氏、清原和博氏。この4人の「うつ」「うつ病」「適応障害」などがどういう状態を指すのかは、わからない。現在、世界で最も広く使われている診断基準である米国精神医学会刊行の「DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)」では、いわゆる「うつ病」の診断基準は厳密に定められている。実際の臨床現場ではいちいちそのマニュアルを取り出して「うつ病か否か」を診断しているわけではない。だが、「DSM-5のうつ病の診断基準は満たさないだろう。しかし、明らかに抑うつ的な気分や症状がある」という場合は、「持続性抑うつ障害」や「適応障害」といった診断名をつけることが多い。
とはいえ、やや込み入った話になるが、精神科医なら誰もが
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