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オペレッタ『メリー・ウィドウ』会見レポート

宝塚や笑いを取り入れた世界で唯一の舞台

米満ゆうこ フリーライター


 昨年、開館15周年を迎えた兵庫県立芸術文化センター(=芸文)で、毎年の夏の風物詩となった「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2021」が上演される。今年の演目はオペラファンでなくても耳なじみの曲が多く、ワルツやフレンチカンカンなどダンスも華やかなレハールの『メリー・ウィドウ』。2008年の初演では、宝塚歌劇団や関西ならではのお笑いの要素を取り入れた演出で、まだまだ堅苦しいと思われているオペラのイメージを払拭し万人へ門戸を広げた。芸術監督で指揮の佐渡裕と、演出の広渡勲、主役のハンナを務める並河寿美、高野百合絵(リモート出演)が同センターで会見を開いた。

この地域の文化は宝塚に元がある

拡大左から、広渡勲、佐渡裕、並河寿美=撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター

――昨年はコロナ禍で延期になりましたが、佐渡さんのプロデュースオペラも15年にわたります。

佐渡:演出の広渡さんが傘寿を迎えられたそうですが、僕も還暦を迎えまして。ヨーロッパから帰って来て、自主隔離の期間中でしたので、パレードをしてもらえず、家で一人酒を飲むという還暦でした(笑)。15年にわたる夏のプロデュースオペラですが、我々としてはその時に起こる事件や事故で頭がいっぱいになるわけです。例えば、海外の歌手を空港に迎えに行ったのに来なかったり、舞台上で出演者がケガをして次の日から車椅子で出てもらったりと、色んなことがありました。それぞれのプロダクションでうまくいかなかったり、言い合いになったりと、いいことも悪いこともたくさんありました。劇場というものは次の世代に何かを残さなきゃいけない、街にオペラ文化を残そうとの思いでやってきました。笑いのあるオペラブッファやオペレッタ、グランドオペラ、ミュージカルなど、同じものはなるべく続かないように、15年間、素晴らしい歌手や演出家、スタッフと一緒に作ってきたなとつくづく思います。

――今年の演目は『メリー・ウィドウ』です。

佐渡:2008年に広渡さんとご一緒した『メリー・ウィドウ』は誇らしく、兵庫県立芸術文化センター(以下、芸文)ならではの『メリー・ウィドウ』になったと思います。『カルメン』『椿姫』に並ぶ、最も多く上演されている演目の一つですが、世界で唯一の舞台が作れたと自負しています。それは、関西でしか作れないものを作ったからです。まず、銀橋を作って宝塚歌劇団風にした。この地域の文化は宝塚に元があると思っていて、僕自身も宝塚に足を運び、毎日のように観客が熱狂しているのを見てきました。宝塚ファンに大編成のオーケストラで作るオペラの世界をぜひ、見てほしいという思いがありましたね。光栄なことに宝塚の100周年記念公演に呼ばれて、指揮をさせていただき、銀橋に初めて男の人が立ったと言われました。非常にリスペクトした上で宝塚のテイストをプロデュースオペラに取り入れ、宝塚OGの方にも出ていただいたんです。

 もう一点はお笑いの文化です。前回は桂ざこばさんでしたが、今回は桂文枝さんに出演していただきます。思い出の作品を新しいキャストで、コロナ禍の中で作っていく大きな挑戦になると思います。

時代の雰囲気や世相を取り入れるのがオペレッタ

拡大広渡勲=撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター

――広渡さんにお伺いします。前回とはどう違う作品になりますか。

広渡:まずオペラとオペレッタの違いですが、オペラは王侯貴族によって発展し、オペレッタは産業革命の後の庶民に支えられてきたというところです。前に芸文で「こうもり」というオペレッタをやりました。その4か月前に東日本大震災があり、上演するかもめたのですが、佐渡マエストロの「こういう時こそオペレッタで皆さんを元気づけたい」という意志のもとに上演しました。結果としては大変良かったです。今回、コロナ禍で同じような状況になり、オペレッタというものはその時代の雰囲気や世相を取り込んでいかなければならない。『メリー・ウィドウ』の物語はお家の刀があっち行ったりこっち行ったりして、最後は元の鞘に収まるという他愛もないめでたい話です。今年の世相を反映しながら見せ場を作っていきたい。コロナやオリンピックなどが話題に出てくると思いますね。

――宝塚出身の香寿たつきさんが出演されますが、期待されることは?

広渡:香寿さんとはお会いして、色んなお話をしましたが、稽古場で香寿さんと文枝師匠のとのやりとりを見て、新しい作品を作りあげたいですね。文枝師匠は歌も披露されるそうで、香寿さんと師匠でフレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースのような雰囲気が出せればいいなと思っています。

――宝塚のテイストを取り入れるとのことですが、どういう演出になりますか。

広渡:宝塚というとやっぱり銀橋ですよね。お客さんと演者の接点となる、歌舞伎でいう花道なんです。お客さんに作品を肌で感じていただくことに重点を置いていきたいと思っています。前回は当日まで内緒だったんですが、カーテンコールの後に、大階段で何十分ものグランドフィナーレをした。今回もそういう華やかなところを取り入れたいですね。

拡大並河寿美=撮影:飯島隆/提供:兵庫県立芸術文化センター

――物語は1900年ごろのパリを舞台に、莫大な遺産を相続した未亡人ハンナと、昔の恋人ダニロの恋のさや当てが描かれます。並河さん、高野さんはどう演じたいですか。

並河:芸文の初演ではヴァランシエンヌを演じたのですが、今回はハンナ役なので、楽しみで大人になった気分です。前回、ハンナは佐藤しのぶさんが演じられていました。佐藤さんは私にとって学生時代から憧れの存在で、その佐藤さんと同じ舞台に立てたことは、本当に大きな経験で心が躍りました。ハンナは美しくてきらびやかで、艶やかな佐藤さんの印象が強く残っているんです。佐藤さんの影響が出てしまうのではないかと心配ですが、彼女のハンナをリスペクトしつつ、私なりのハンナを演じていきたい。まだまだ稽古が始まったばかりですが、新しい「メリー・ウィドウ」を作りたいです。

高野:私は芸文のオペラ作品に初出演しますが、夢のようで、ワクワクしています。前回の公演を映像で拝見して、すべてのエンターテインメントが詰まった、オペレッタを超えた一つの大きい豪華なショーだと思いました。佐藤さんのハンナは本当に美しくて、まさにディーバのような存在感でした。私はまだまだ及ばないのですが、そんな存在感のある、皆さまから愛されるハンナ・歌い手でありたいと思います。また、ハンナがパーティなどで見せるオフィシャルな顔と、ダニロの前で見せるプライベートな顔、その二つの顔をもっと掘り下げていきたいです。とにかく愉快で楽しい作品なので、皆さまをハッピーな世界にお連れできるよう、がんばります。

ソーシャルディスタンスの恋物語

拡大

――佐渡さんは「街にオペラ文化を根付かせる」との思いがあってやってこられましたが、年月を経て、それを実感することはありますか。

佐渡:単純に僕自身が街を歩いていて、「今年、『メリー・ウィドウ』をやってくださいますか、楽しみにしています」とたくさんの人に声をかけられる。それが一番の実感ですかね。印象に残っているのは、『メリー・ウィドウ』の翌年に『カルメン』をやり、公演後にサイン会をしたんです。長い行列の中で高齢のおばあちゃまが来られて、「先生、こんなに人が死ぬ作品はやめてください」と(笑)。「私、昨年の『メリー・ウィドウ』ですごいオペラファンになったんです」と言われるから、「おばあちゃん、オペラというのはだいたい人が死ぬんですよ」と説明したのを覚えています(笑)。そのぐらいおばあちゃんにとっては『メリー・ウィドウ』が特別で、その後は、なるべく人が死なない作品を選んできたつもりですが(笑)、いや、美しく死んでいただくといったほうがいいかも知れませんね。僕にとっても『メリー・ウィドウ』が一番に誇れる、それほどの思い出になっています。

――出演者にとっても、芸文は特別な場所になっています。

佐渡:何回もこの舞台に立ってくれた並河さんのような出演者が増えたことで、この劇場を自分たちのものだと思ってもらえるチームができてきた。また、高野さんのように新しく舞台に立ってくれる人もいる。芸文で作るオペラが日本を代表する歌手たちにとって「あそこで歌える」と感じてもらえるのは大きなことです。また、『メリー・ウィドウ』に親子二代にわたって出演するキャストもいて確かに僕も還暦になったなと(笑)。これからは、映像でお客さんにオペラの良さを知ってもらうレクチャーコンサートもありなのではと思いますし、今に満足することなく、オペラの素晴らしさを伝えていきたいです。

――コロナ禍だからこそ、ハッピーな作品が見たいという声が多いです。

佐渡:この作品はハンナとダニロが主人公ですが、この二人はなかなかくっつかないんですよね。ソーシャルディスタンスを取りながら、お互い好きとは言わないけれど、好きなのが面白いわけで、今年、この作品にして良かったのではないかと(笑)。ドタバタがあって、ダンスも豪華なのですが、一番核になるのは、子どものようで大人な二人の恋の話。素直に正直になれないところが似た者同士で、ドキドキしたり、イライラしたり、そこにこの作品の面白さや深さがあるので、ぜひ、楽しみにしていただきたいです。

◆公演情報◆
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ 2021
喜歌劇『メリー・ウィドウ』
(全3幕/⽇本語上演・⽇本語字幕付/改訂新制作)
2021年7⽉16⽇(⾦)~7月25⽇(⽇)
公式ホームページ
[スタッフ]
⾳楽:フランツ・レハール
台本:ヴィクトル・レオン/レオ・シュタイン
指揮:佐渡 裕
演出/⽇本語台本:広渡 勲

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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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