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『夏のおどり』で姿を現した“王者”楊琳とOSK日本歌劇団の明日

青木るえか エッセイスト

 皆さんは「楊琳」を知っているだろうか。楊琳と書いて「やん・りん」。

写真提供・松竹株式会社楊琳=写真提供・松竹株式会社
 いや、その前に「OSK日本歌劇団」(以下OSK)だ。OSKは大阪を本拠地とする、未婚女性だけの歌劇団である。

 というと「あー、宝塚(歌劇団)みたいなやつね」という程度には知名度はあるかもしれない。では、宝塚歌劇団(以下タカラヅカ)と、OSK日本歌劇団がどう違うのかというのは説明が難しい。「祇園の舞妓と先斗町の舞妓はどう違うか」というようなもので、祇園や先斗町の人にとってまるで違うものであっても、通りすがりの人には同じに見える。舞妓さんといえば祇園。違うのに。そのへんもタカラヅカとOSKの関係に似ている。

 ここでは主に「同じに見える」人に向けて、その魅力を語ってみたい、と、OSKの。

 OSKはけっこう歴史がある。来年創立100周年である。100年続いてる劇団なんてめったにあるもんじゃない。が、ここまで来るのにたいへんな紆余曲折があり、経営母体はいくつも変わり、途中で親会社に放り出されて解散とか路上で存続署名活動とか、存続したと思ったら民事再生とか、とっくに消滅しててもおかしくないぐらい波瀾万丈なのである。

楊琳=撮影・久保昌美OSK日本歌劇団の新しいトップスター、楊琳=撮影・久保昌美

 いろんな劇場やスペースで公演を打っているが、年にいちどの最大の公演が、大阪松竹座と新橋演舞場での『春のおどり』で、今年はそれに加えて、6月に大阪松竹座で『レビュー夏のおどり』があった。それが「新トップスターのお披露目公演」である。

100周年に「楊琳」がトップスターである意味

 その新しいトップスターこそ「楊琳」。

 こういう世界では珍しい本名で、その姓を見てわかる通り、在日華僑の4世。入団15年目の男役だ。

撮影・久保昌美撮影・久保昌美

 お披露目公演のタイトルは「レビュー夏のおどり『STARt』」。「スター」と「スタート」と「アート」をかけたダジャレタイトルであるがカッコイイので問題ない。

 OSKが大阪松竹座で上演するのはレビューである。

 タカラヅカはミュージカルやショーだ。ショーは「スターを見せるもの」、レビューは「集団美を見せるもの」だと思う(この定義が正しいかどうかはわからない。OSKとタカラヅカを見て私が感じたことだ)。

 タカラヅカはまさにショーであってスターを見せてくださるし、OSKは高速ラインダンス、一糸乱れぬ群舞などで客席を巻き込み、圧倒する。

 だからOSKのトップスターは、トップとしての性格がタカラヅカとはちょっと違う。野生のオオカミの群れの中でやがて頭角を現して先頭に立つ、とでも言ったらいいのか(OSKは、男役はもちろん、娘役たちもオオカミのように1匹で立っていて、強い)。そしてその先頭を走るオオカミは、その統率力ゆえに美しい。OSKのトップスターというのはそういう存在だ。

 ……が、このたびトップお披露目をした楊琳はちょっとタイプが違う。

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