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初音ミク「White Letter」、13年半後も届く国際便〜奇跡の3カ月(5)

現存最古のオリジナル曲が結び続ける世界の人々

丹治吉順 朝日新聞記者

朝の4〜5時ごろまで色塗りを

「White Letter」の投稿直後、この曲に注目した人がいた。ハンドル名「R-Q」さん。多数の初音ミク動画を横断視聴していたとき偶然に目にした。

「動画に『アニメ化はよ(※注:アニメ化を早く、の意味)』というコメントがあったんです。それでスイッチが入ってしまったのでしょう」と回顧する。「当時、初音ミクのオリジナル曲は本当に珍しく、この曲の独特のリズムやメロディにも惹かれました」

9月10日に書き込まれた「誰かアニメ作っておくれ」のコメント。アニメ化を期待する声はほかにもあった拡大9月10日に書き込まれた「誰かアニメ作っておくれ」のコメント。アニメ化を期待する声はほかにもあった

すぐにアニメ作りに着手、3日後の9月12日午前9時27分、「【勝手にPV】WhiteLetter【未完Ver.00】」を投稿する。曲のごく一部を手描きアニメ化、彩色もわずかだ。

そして9月142030日と立て続けに途中のバージョンが投稿される。バージョン数は制作日数を意味する。9月30日投稿分は「Ver.15」で、つまり12日から30日までのうち15日間を制作に充てていた。

本業の仕事は昼夜交代制。食事や入浴などの時間を別にすれば、平日の昼勤務のときは午後8時ごろから午前2時ごろまで描き、休日はお昼前から夜中までを動画の制作に費やした。Ver.15から完成版の間の作業では、平日でも朝4〜5時ごろまで色塗りをしていたこともあるという。最終的に、描いた絵は約750枚に及んだ。

「こんなこと、あり得るのか?」

──「こんなこと、あり得るのか?」

R-Qさんの動画Ver.00を見て、原曲を作ったGonGossさんは仰天した。予想もしない展開だった。

「オリジナル曲にMV(ミュージックビデオ)をつける文化や習慣などない時期でした。自分が『二次創作される側』になることなど全く考えていません。尋常でない驚きでした」

途中のバージョンも「見せる工夫」が凝らされていた。

「完成版では使われないはずの要素まで手描きで作られていて、それがまた見る者を楽しませる形になっている。R-Qさんの想いが伝わってきました」

完成版では使われないはずの要素とは、例えばVer.04の動画開始から1分ごろ以降、「作業中…」という表示の中で、コンベアを流れてくる寿司盛りの点検をしている初音ミクが、途中から寿司のつまみ食いを始める様子などを指す。実際、この部分で「食うな」「かわいすぎ」というコメントが画面を埋めている(リンクはその部分から)。

そしてVer.15から1カ月近い空白を挟んだ10月27日午前2時57分、「完成版」が投稿される。

【初音ミク】WhiteLetter【アニメPV完成版】

「完成おめでとう」

「頑張ったな」

「1カ月以上の努力の結晶、受け取ったぜ」

「良い絵と良い歌が合わさると神作品になるな」

「作者の愛を感じるよ」

「なんかもう、、ありがとう」

27日午後11時59分までに完成動画に寄せられたコメントだ。ニコニコチャートの記録によれば、翌28日には約5万6000再生でいきなりランキング内に登場、11月15日には10万再生を超えている。

R-Qさんの動画Ver.15に書き込まれた長文のお礼コメント。完成版ではコメントが多すぎて、すぐに表示されなくなるため、このバージョンに書き込まれた拡大R-Qさんの動画Ver.15に書き込まれた長文のお礼コメント。完成版ではコメントが多すぎて、すぐに表示されなくなるため、このバージョンに書き込まれた

一次創作と二次創作が両輪のように

そして前述の通り、原曲の「White Letter」がランキング内に再浮上したのが、MV完成版投稿日の27日だ。

「アニメ版から」

「アニメから来ました」

「すごいPVができてたよ」

10月27日、「White Letter」原曲には「アニメから聴きに来た」という趣旨のコメントが多数書き込まれた拡大10月27日、「White Letter」原曲には「アニメから聴きに来た」という趣旨のコメントが多数書き込まれた

そんなコメントが原曲動画に次々投稿される。次のようなコメントもこの日に書き込まれた。

「発売から10日でこれか、すごいな」

「今まで見逃していた自分に失望」

R-Qさんは、最初のVer.00のときから、投稿したMVの動画説明欄にGonGossさんの原曲へのリンクを張っていたので、そこから容易に原曲にたどり着ける。

「リンクは、他の人の投稿動画を参考にしました。派生動画でも、大元になった作品へのリンクを張るのが当時からよくあったと思います」とR-Qさんはいう。

ニコニコ動画の二次創作の習慣「元作品へのリンクを張る」というユーザー文化は、このときすでに生まれていた。このユーザー文化が後に、二次創作の派生状況などを精密に分析する学術的研究などにも大きな意味を持つようになる。誰が始めたか、どのように定着したかわからないニコニコ動画のユーザー文化が、学術的貢献をした例だ。YouTubeにはこうしたユーザー文化はあまり見当たらない。

「White Letter」の原曲とMVを比べると、公開当初の人気はMVの方がまさっていた。再生数もMVの方がずっと多かった。だが現在の再生数は、原曲約24万回、MV約27万回と、大差ない。MVが牽引して、原曲への評価がじわじわと高まっていった。

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筆者

丹治吉順

丹治吉順(たんじよしのぶ) 朝日新聞記者

1987年入社。東京・西部本社学芸部、アエラ編集部、ASAHIパソコン編集部、be編集部などを経て、現在、オピニオン編集部・論座編集部。機能不全家庭(児童虐待)、ITを主に取材。「文化・暮らし・若者」と「技術」の関係に関心を持つ。現在追跡中の主な技術ジャンルは、AI、VR/AR、5Gなど。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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