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【公演評】星組『マノン』

恋におぼれ情熱のままに突っ走る若き青年を愛月ひかるが瑞々しく演じる

さかせがわ猫丸 フリーライター


 星組公演ミュージカル・ロマン『マノン』が、7月1日、宝塚バウホールで初日を迎えました(12日まで。7月22日~28日/KAAT神奈川芸術劇場)。

 題材となったアベ・プレヴォーの小説『マノン・レスコー』は、男を破滅させる女ファム・ファタールの原点ともいわれています。宝塚では2001年に花組・瀬奈じゅん主演で上演、2015年には月組・龍真咲主演でベトナム版『舞音-MANON-』が上演され、いずれも大好評を博しました。

 今回、主演するのは、東上公演2度目の主演となる愛月ひかるさん。情熱の国スペインを舞台に、自由奔放なマノンに翻弄される貴族の青年ロドリゴを演じます。

 マノンにはこれが3度目の東上公演ヒロインとなる有沙瞳さんが、安定した実力と演技でロドリゴを狂わせます。マノンの兄レスコーには、102期生の天飛華音さんが抜擢されたのも注目を集めました。(以下、ネタバレあります)

若々しさあふれる愛月

 93期生の愛月さんは宙組で育ちましたが、2019年2月に専科へ一時異動後、11月に星組へ配属となりました。トップスター礼真琴さんとはまったく違った持ち味で新たな風を吹かせ、今ではすっかり星組生として、ますます輝きを増しています。

 愛月さんといえば、ラスプーチンや悪役など難しくて濃い役がよく似合い、前回の大劇場公演『ロミオとジュリエット』でも、“死”役で強烈な存在感を示しました。すでに貫禄も十分に備わった愛月さんが、研15にして恋におぼれる一途な学生にチャレンジし、新たな一面を見せています。

――19世紀スペイン南部。セビリヤの名門貴族で、まじめな学生のロドリゴ(愛月)は、ある日、マラガで少女マノン(有沙)と出会う。一目で恋に落ちたロドリゴは、修道院に入れられるとおびえるマノンを連れて、マドリードへと駆け落ちする。父オリベイラ伯爵(大輝真琴)や兄ホアン(桃堂純)、友人のミゲル(綺城ひか理)らの説得も届かないほど、ロドリゴはマノンにおぼれていく。

 幕開きはスペインの舞台らしく、情熱的なスパニッシュダンスから。愛月さんはゴールドに輝く衣装が映え、圧倒的な存在感で舞台を支配します。

 しかし物語が始まると、がらりと雰囲気を変え、おぼっちゃまへと変身です。将来を約束されたエリートで、純粋なロドリゴを、愛月さんは瑞々しく演じていました。追ってから逃れるマノンをかくまい、さわやかな二枚目らしさを放ちつつ、女におぼれ破滅していく無分別さを、熱量高く演じていました。落ち着いた大人の男のイメージが強い愛月さんの、まさに新境地開拓ではないでしょうか。

◆公演情報◆
『マノン』
2021年7月1日(木)~7月12日(月) 宝塚バウホール
2021年7月22日(木)~7月28日(水)  KAAT神奈川芸術劇場
公式ホームページ
[スタッフ]
原作:アベ・プレヴォー
脚本・演出:中村 暁

ロドリゴを支える友人の綺城

 突然、駆け落ちしたロドリゴに、家族や友人が戸惑うのも無理はありませんでした。厳格な父オリベイラ伯爵を演じるのは大輝さん。小柄でキュートなタイプでしたが、このような重厚な役が似合うようになり、美稀千種さんのような渋さも出てきました。兄ホアン役の桃堂さんは、この公演で退団です。冷静沈着で知性的な役が上手い役者さんですが、最後の役もその魅力をいかんなく発揮し、余韻の残る演技を見せています。

 ロドリゴの友人ミゲルを演じるのは綺城さん。昨年、花組から異動し、ますます魅力が開花しています。『ロミオとジュリエット』では、ロミオの友人ベンヴォ―リオ役で、高い歌唱力もアピールしました。ミゲルはロドリゴを常に心配し、力になろうとする優しい青年ですが、綺城さんには少し物足りない役かもしれません。お芝居では抑えた演技を徹底していましたが、フィナーレのショーでは思い切り弾けていますので、その落差もぜひお楽しみください。

有沙が演じる魔性の女

――マドリードで暮らし始めた2人だが、マノンは贅沢に生きることが当たり前だったため、金のためならロドリゴを平気で裏切るような女だった。マノンの兄レスコー(天飛)も恋人エレーナ(水乃ゆり)らを連れてきて、ロドリゴにたかる始末だ。それでもロドリゴはマノンのためならと賭博にも走り、家族も友人も裏切りながら、自ら破滅へと飛び込んでいくのだった……。

 タイトルロールでもあるマノンを演じる有沙さんは、ヒロイン経験も豊富で、歌や演技の安定感も抜群です。男を狂わせる魔性の女というよりは、無邪気で世間知らずのお嬢様で、ロドリゴを夢中にさせる小悪魔的魅力がたっぷり。ロドリゴと情熱的に愛し合いながら、お金持ちには簡単になびき、ピュアな笑顔を見せる屈託のなさは、言い知れぬ魅力にあふれています。「こんなひどい女なのに、目をさませロドリゴ!」と思わずこぶしを握るはずが、客席もなんとなく丸め込まれてしまう、それこそが魔性の女なのでしょう。

 マノンを囲おうとするおじさまには、資産家のフェルナンド(輝咲玲央)、貴族のアルフォンゾ公爵(朝水りょう)がいますが、いずれも渋くて、じんわりといやらしいのがいい。輝咲さんも朝水さんも、星組のダンディ役者が定着してきました。

大役に挑む天飛

 レスコー役の天飛さんはまだ新人公演の学年で、マノンの兄役はなかなかの重責かもしれません。それでも落ち着いたセリフ回しで、元花組トップスターの蘭寿とむさんを思い出させるマスクもりりしく、陽気で熱い役柄に全力でぶつかっていました。パトロンからお金を引き出すため、ロドリゴの兄だとだます場面が出てきますが、さすがに愛月さんより年上設定は厳しいかも…? 天飛さんにとってチャレンジな役柄ですが、これも大きな期待の表れでしょうか。これからの活躍も楽しみになりました。

 マノンにおぼれて賭博にまで手を染め、どんどん道を踏み外していくロドリゴ。ハラハラするし、もどかしくもなるのですが、あまりにも一直線すぎて、だんだん「こんな風に愛されたい!」と思うようになってくるから不思議です。

 愛月さんのような素敵な紳士に、こんなにも情熱的に愛される夢…それもまた宝塚の醍醐味なのかもしれません。

華やかなショーで締めくくる

 フィナーレはまず、綺城さんがさわやかに歌い踊ります。お芝居で押さえていたエネルギーを一気に解き放つかのように弾けていました。

 さらにスパニッシュの群舞では、愛月さんを中心に星組の熱さをここぞとばかりに披露し、ダンスの得意な天飛さんもキレ味鋭い動きで目を引きました。続く愛月さんと有沙さんのロマンチックなデュエットダンスは、宝塚らしい豪華さと夢見心地でいっぱいです。

 愛月さんら星組生の情熱がほとばしるお芝居と、ぎゅっと濃縮されたショーで締めくくられ、観劇後の満足度も高まる舞台となりました。

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筆者

さかせがわ猫丸

さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター

大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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