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松竹新喜劇は「笑いと涙」ではない。見るべきものは「カッコよさ」だ

青木るえか エッセイスト

 今、京都の南座で、『松竹新喜劇 夏まつり特別公演』が上演されている。

 松竹新喜劇っていうと「昔テレビで見てたわー、なつかしいわー」という関西の人はけっこういるけれど、今はテレビでやってないしなあ。大阪局制作の朝ドラに、松竹新喜劇の役者がよく出るので、見かけるけれど。

 みなさん、『松竹新喜劇』のイメージって何ですか?

 『松竹新喜劇』といえば「笑いと涙」である。

 アホなおっちゃんおばちゃんがベタなズッコケを繰り出してくるけどアホにはアホの真心がある、人情がある、最後はホロリと泣かせます、的な。

 世間は「笑いと涙」だと思ってるし、松竹新喜劇のポスターとかにも「笑いと涙の」と書いてあったりするし、実際に松竹新喜劇を見ると、ほんとに笑って最後にホロリとくるような芝居で、それがまたうまくできてるんで感心する。

 ……と、書いておきながら、実は、

 「松竹新喜劇は、笑いと涙では“ない”」

 のではないか。『夏まつり特別公演』を見ていて、そのことに気がついた。

『新作喜劇 一休さん』(『松竹新喜劇 夏まつり特別公演』)の桐生麻耶(左)と藤山扇治郎=撮影:松下るみ桐生麻耶(左)と藤山扇治郎=『新作喜劇 一休さん』(京都・南座『松竹新喜劇 夏まつり特別公演』)より 撮影:松下るみ

カッコよくて、笑わせる、桐生麻耶の蜷川新右衛門

 『夏まつり特別公演』の第一部は、『新作喜劇 一休さん』で、誰でも知ってる「一休とんち咄」を下敷きにした、それこそ笑わせて最後はホロリとさせる、松竹新喜劇的にカンペキな芝居だ。ここまではいい。

 で、この『一休さん』に、OSK日本歌劇団の桐生麻耶が客演している。今年の3月までトップスターで、その後「特別専科」に移籍した男役だ。その桐生麻耶が、『一休さん』に「蜷川新右衛門」役で出ている。

 新右衛門さん。あのアニメの『一休さん』に眉毛の濃い、アゴの割れた無骨な侍が出てたでしょう、あれが新右衛門さんです。

 歌劇の男役のトップスター(だった人)が男性も出る舞台に、男役で出ることはめったにない。先日、『ポーの一族』で明日海りお(元宝塚男役トップスター)がエドガー役で男性と共演してたが、エドガーは主役で、おまけに永遠の少年だ。

 蜷川新右衛門は、脇役の無骨な侍。これは「男装の麗人」は求められていないってことです。「普通の男優」としてキャスティングされているのだ。桐生麻耶本人も「男として出演させていただきます」と言っていた。

 この人は「唯一無二の男役」というのがトップスター時代の惹句だったが、確かにそりゃ唯一無二だよ、こんなことできるトップスターはおらんよ。

 で、この『一休さん』における蜷川新右衛門がすごかった。

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