第56回ENEOS児童文化賞を受賞。魂をストレートにぶつけた作品の魅力
2021年08月01日
躍動感あふれる「いのち」を描いてきた絵本作家の田島征三さん(81)が、第56回ENEOS児童文化賞を受賞した。「デビュー以来、半世紀以上にわたって常に斬新で意欲的な挑戦をし続けてきた」と贈賞理由にある。
「これまでの賞で最もうれしい」という田島さん。自身が感動した作品は必ず誰かに響くという揺るぎない信念。いつまでも描き続けたいという情熱。魂をストレートにぶつけたような作品に年齢や性別など関係ない。グイグイと見る者の心をワシづかみにしてはなさい。
新潟県十日町市の里山にある「鉢(はち)&田島征三 絵本と木の実の美術館」は、ユニークかつ独創的、そして、ブレることがない田島さんの制作姿勢や生き方を象徴する場所であり、作品なのかもしれない。
2009年、廃校になった小学校を利用して開館。母校を去らねばならなくなった3人の最後の在校生の思いなどが、空間絵本「学校はカラッポにならない」によってよみがえった。流木や木の実などさまざまな材料で使ったオブジェには、オバケや神様、生き物も。周囲には、ビオトープ(生物が生息する場所)がつくられ、一般の美術館とはおよそ無縁なはずのヤギなどの動物が暮らしている。
「有名な芸術祭をきっかけにして始まった美術館。最初は、絵を並べるだけのような話だったのですが、それじゃ面白くない。いっそ、小学校を、丸ごと作品にしてしまおう、とね。
出来上がったのは、人間、オバケ、生き物が組み合わされた、ちょっと異様な空間。『子どもが怖がるのでは?』と心配する人もいたけど、フタを開けたら、子どもたちや若いカップルが押し寄せた。日々進化。今では、学校というよりも集落そのものが美術館ですよ」
自分が描きたい絵を描く。売らんがための仕事はしない。それが田島さんのスタンスだ。1969年、多くの仕事のオファーを断って、東京都日の出村(当時)の里山に移住したのも、嫌な仕事をしたくなかったからだ。
「都会にいれば高い家賃も払わなきゃいけない。田舎に行って自給自足の暮らしをすれば、描きたい作品だけを描けると考えたのです。結局、自給自足とまでは行かなかったけど、ヤギやチャボを飼い、田畑を耕しながらの生活は満足行くものでしたね」
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