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時代と格闘した20世紀の歴史家・ホブズボーム~巧みな語り口で膨大な著作

評伝『エリック・ホブズボーム――歴史の中の人生』でたどる起伏と矛盾に富んだ生き様

三浦俊章 朝日新聞編集委員

定時制教師の経験で培った歴史の語り口

 ホブズボームはベルリンで政治運動の洗礼を受けて共産主義者になった。イギリスに移ってからもその政治信条を変えなかった。ケンブリッジ大学は共産主義のシンパが多く、「赤いケンブリッジ」とも言われ、一部にはソ連のためのスパイ活動に携わる者もいた。

 大戦中にホブズボームはイギリス陸軍教育部隊に所属したが、自らが編集した壁新聞で、独ソ戦を戦う赤軍を支援するために、西ヨーロッパに第2戦線を開くことを繰り返し求めていた。その活動があまりにも党派的だとみなされ、イギリス情報部(M15)に目を付けられた。以後ホブズボームの言動は細かく観察されるようになる。

 ホブズボームの共産主義は学問の世界にとどまったが、冷戦下のイギリスでは共産主義者の教職探しは困難を極めた。彼がようやく得たのは、ロンドン大学で定時制学生に向けに夜間クラスを開講するバーベック・コレッジの講師のポストだった。これが幸いした。

 講義は夕方午後6時から9時までで、日中は執筆や調査にあてることができた。また、忙しい仕事を抱え、勉強からしばらく遠ざかっていた社会人の学生たちに講義することは、教養ある一般大衆向けの通史を後に書く格好の訓練となったのである。

 ホブズボームの歴史書の魅力は叙述のおもしろさだと言われている。レベルを落とすことなく、読者が続きを読みたくなるような巧みな語りが特徴だ。作家の回想、軍隊に志願した若者の手紙、大戦中のレジスタンスの壁新聞の一節など、時代を活写するエピソードを豊富にまぶしてある。読者の興味を引き立てるこの手法は、定時制の教師の時代に養われたのだ。

拡大Pixelbliss/shutterstock.com

「グローバル・ヒストリー」の先駆けとしての4部作

 ホブズボームは一般に、共産主義知識人として知られている。戦後イギリスで「共産党歴史家グループ」の論客として注目され、冷戦終結後にイギリス共産党が瓦解するまで党員であり続けた。

 ただ、彼の名前を世界に知らしめた『革命の時代』『資本の時代』『帝国の時代』『両極端の時代』と連なる19・20世紀の4部作は(後の著作ほど顕著だが)、マルクス主義の唯物史観では書かれていない。

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筆者

三浦俊章

三浦俊章(みうら・としあき) 朝日新聞編集委員

朝日新聞ワシントン特派員、テレビ朝日系列「報道ステーション」コメンテーター、日曜版GLOBE編集長などを経て、2014年から現職。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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