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非常事態と対峙する君子、佐々木蔵之介が演劇に

中国「清」の雍正帝に見るリーダー像【下】

阿部修英 テレビディレクター

重んじたのは、寛容さと威厳

 曾静が、自分たち漢族の王朝「明」を力で倒し国を奪った野蛮人、と、満族を糾弾すれば、歴史を紐解き、まず「明」を倒したのは満族ではなく、李自成という漢族の反乱軍であることを説明。その李自成を倒したものこそ満族であることから、「むしろ明のカタキを取ったのだ」と言って納得させる。

 さらに曾静が、明の時代のほうが国は安全で豊かだったはずだ、と言えば、地方官の報告により明確につかんでいた国の状況を示し、明の末期といまの自分の治世とでいかに財政や治安が改善したかを具体的に示す。

 追い詰められた曾静が「異民族になどこの偉大な中華は治められない!」とヤケになれば、中華の歴史上名君とされる舜王や周の文王が異民族出身であることを挙げ、「民族の違いではなく『徳』の違い、徳を持った王が導くことこそ中華の真の道では」と説いてグウの音も出なくさせる。

 差別意識を根こそぎ奪われた曾静に対し、トドメは彼を「無罪」とすること。大清帝国の定法では差別主義者は死刑と決まっていたが、雍正帝はあえて「無罪」に。そしてトドメのトドメ、雍正帝はこの取り調べの記録もまた出版し、民間にくすぶっていた差別思想そのものを封じた。

 民族の対立があったとき、どちらかに偏ったり、どちらかを追い出したり、ナチスドイツのように収容虐殺にまで至る方策を取る政権が「後」の時代にいくらでもいた中、雍正帝は異文化、異民族の共存の道を自らの行いによって示したのだ。

 彼はまた大国の「威厳」というものを人一倍重んじた皇帝でもあった。

 ある地方官が、自分の任地のすぐ近くでもあったベトナムで良き銅山が見つかったことを報告、軍を派遣して占領しては? と伝えると、こう返す。

 「堂々たる王朝は利益のために小さな国と争ったりはしないものだ。戦争をする必要など無い」

 化石燃料やレアメタル、資源の確保と奪い合いのパワーゲームが続く今、この雍正帝の言葉をどう聞くか。各国のリーダーに問うてみたい気もする。

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筆者

阿部修英

阿部修英(あべ・のぶひで) テレビディレクター

大阪府出身。東京大学文学部卒業、同大学院人文社会系研究科(美術史学)修了。2005年、映像制作会社テレビマンユニオンに参加。これまで、NHK総合「NHKスペシャル 中国文明の謎」(2012)、「NHKスペシャル 故宮」(2014)、「よみがえる藤田嗣治」(2018)、NHK-BSプレミアム「中国王朝シリーズ」(2015~2020)などの演出を手掛ける。演出したNHK-BSプレミアム「アナザーストーリーズ 運命の分岐点 We Are The World 奇跡の一夜 10時間の真実」で第56回ギャラクシー賞奨励賞を受賞。2021年4月からのEテレ「ズームバック×オチアイ」の総合演出を担当した。『君子無朋』で初めて戯曲を執筆した。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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