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初音ミク、「う」と「た」から飛び立つ彼方に〜奇跡の3カ月(8)

人と作品が結びつき織りなす軌跡

丹治吉順 朝日新聞記者

初音ミク、技術指向が開いた民族調の扉〜奇跡の3カ月(7)から続く

【読者のみなさまへ】初音ミクとボーカロイドの文化にはきわめて多くの人々がかかわり、その全容は一人の記者に捉え切れるものではありません。記事を読んでお気づきの点やご意見など、コメント欄にお書きいただけると幸いです。一つひとつにお答えすることはかないませんが、コメントとともに成長するシリーズにできたらと願っています。

歌詞がない歌から生まれた人と作品のつながり

「作詞ができないので、『う』と『た』のみで(中略)歌わせてみました」

そんな動画説明のついた初音ミクオリジナル曲が、2007年10月30日に投稿された。聴くと本当に初音ミクが「うう〜う〜」「た〜たた〜た、たたた〜」としか歌っていない。題名は「utatata-Trance 01」、何かの型番のようだ。

初音ミク オリジナル [utatata-Trance 01] -Original mix-

とはいえ音楽は魅力的だった。大きな注目を浴びたわけではないが、聴いた人々の多くは好意的に反応した。

「カッコイイ!!」
「疾走感が気持ちいいなあ」
「これはいい。すごくいいだろ」

投稿後、数日以内に書き込まれた視聴者コメントだ。

同様に11月3日、「歌詞募集中です…」と書き込まれた1枚絵の動画が投稿された。これまた曲に付けられた歌詞は「ネギ、おネギ」「たたたた、たたった、たたたた、たーたーたー」だけだった。題名は「utatata-Trance 02」。

初音ミク オリジナル [utatata-Trance 02]

歌詞がないに等しいこの二つの楽曲が、人と人とを次々結びつけ、いくつもの新たな創作を生む。初音ミク現象を体現するような出来事がここから数年がかりの規模で起きる。それも最初期ならではの素朴な流れから。(今回登場していただく皆さんには全員テキストによる一問一答で取材した。寄せられた回答は筆者の手で要約・編集してある)

「う」と「た」だから「うたたP」

「ゲーム音楽が好きで音楽を始めたので、つくる楽曲はほとんどインスト(器楽)曲。自分で歌詞をつけるのはとても難しいことでした」

作曲した「うたたP」さんはいう。最初の投稿楽曲の歌詞が「う」と「た」だったことが名前の由来だ。(この名前のつけ方については文末を参照)

初音ミクの存在を知ったのは、オンラインゲームで遊んでいた友人を通じてだった。当時、うたたPさんはアメリカの大学で音楽を専攻していた。そこに「これ、知ってる?」とその友人から連絡が来た。うたたPさんが音楽制作していることも知っていたからだ。

ボーカロイド製品はすでにMEIKOやKAITOが存在していたが、うたたPさんが「歌うソフト」の存在を知るのは初音ミクが初めてだった。「なんて画期的な」と感激して、さっそく初音ミクを購入した。

最初の「う」と「た」だけの曲も、この友人に聞かせるためにつくった。曲のデータを送ると、その友人が再び、「みんなここに投稿しているから、君もしてみたら?」とニコニコ動画を教えてくれた。

「なので、あれはもともと友人向けのデモソングだったんです」と最初の投稿曲を振り返る。

コメントのやりとりで詞とタイトルを決める

同様にオリジナル2曲目を投稿、相変わらず歌詞が書けない。ただ、その音楽の質の高さに関心を持った人がいた。

動画を再生していくと、主メロディーが始まる部分から、オレンジ色のコメントが現れる。動画の進行に合わせてコメントできるニコニコ動画の仕組みを利用して、メロディーに乗せる歌詞を投稿していった。

オレンジ色のコメントで書き込まれていく歌詞。メロディに合わせ、「闇から 醒めた」「私は 夢だった」とつづられていく拡大コメントで書き込まれていく歌詞。メロディに合わせ、「闇から 醒めた」「私は 夢だった」とつづられていく

「闇から醒めた
(私は夢だった)
私は歌った
私は世界の
(どこにもいないの)」

やはりオレンジ色のコメントで、「詞題は『不在の女神』」と、曲名も提案される。

うたたPさんが緑色のコメントで答える。

「気に入りました!使わせていただきます!」

画面下で行われるやりとり。オレンジ色で「詞題は『不在の女神』」と曲名が提案され、緑色で「気に入りました!使わせていただきます!」と答える拡大画面下で行われるやりとり。オレンジ色で「詞題は『不在の女神』」と曲名が提案され、緑色で「気に入りました!使わせていただきます!」と答える

途中で、曲のテーマや歌う主体(誰の視点から歌っているのかということ)、聞き手の設定などをめぐる問答もオレンジ色と緑色のコメントでやりとりされる。

ニコニコ動画の画面上を流れるコメントを通じた対話で、歌詞のなかった曲の歌詞が作られていき、一つの歌になっていった。

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筆者

丹治吉順

丹治吉順(たんじよしのぶ) 朝日新聞記者

1987年入社。東京・西部本社学芸部、アエラ編集部、ASAHIパソコン編集部、be編集部などを経て、現在、オピニオン編集部・論座編集部。機能不全家庭(児童虐待)、ITを主に取材。「文化・暮らし・若者」と「技術」の関係に関心を持つ。現在追跡中の主な技術ジャンルは、AI、VR/AR、5Gなど。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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