学生は、現実をターゲットにした映画を待っている
2021年07月29日
7月30日公開のドキュメンタリー映画『パンケーキを毒見する』の「企画・製作・エグゼクティブプロデューサー」は河村光庸氏。彼は政権に立ち向かう記者を描いた劇映画『新聞記者』(藤井道人監督)が日本アカデミー賞最優秀作品賞などを取り、その原案を書いた東京新聞・望月衣塑子記者のドキュメンタリー『i―新聞記者ドキュメント─』(森達也監督)では東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門で作品賞を取った。最近は『宮本から君へ』(真利子哲也監督)で内定した製作助成金を、麻薬取締法違反で有罪となったピエール瀧が出ているという理由で取り消した日本芸術文化振興会に勝訴するという、飛ぶ鳥を落とす勢いの「反権力」の人である。
私が教える日本大学芸術学部(日芸)には「芸術総合講座」という、どの学科の学生にも開かれた講義がある。各分野の第一線で活躍する方々に毎週日替わりで登壇いただく形式だが、「映像ビジネス」を担当する私は、「話題の人」として5月に河村氏に来てもらった。彼に声をかけたのは『新聞記者』の藤井監督が日芸出身ということもあった。その講義が盛り上がったためか、後日河村氏から日芸で『パンケーキを毒見する』の試写をやりたいと連絡があった。
私は実は少し心配だった。政治を扱ったドキュメンタリーを果たして日芸の学生が見に来てくれるだろうか。この映画はテレビ的なわかりやすい演出だが、受け入れられるだろうか。それ以前に「緊急事態宣言」が出そうだが、大学はこの学内イベントを許可するだろうか。
結果として「宣言」は出たが、7月15日、大きなスクリーンのある上映用の地下教室で、事前予約制にして定員の半分の学生約70人に見せることができた。上映後の河村氏とのトークも含めて予想以上の熱い反応があった。
実は私個人が日芸試写の前に見て一番おもしろかったのは、自民党現職議員の石破茂氏や村上誠一郎氏が正面から菅首相批判をするところだった。特に石破氏は「この世界に35年いて、(今の国会は)初めての言論空間。Aと言えばBと答える。かみ合っていない」と言い、菅首相の答弁をこき下ろす。村上氏は「今までの総理大臣には、上に立つものとしての見識があったが、菅さんにはない」。彼らは自らの政治生命をかけて発言したはずだ。
ところが上映後のアンケートで、ここがおもしろいと書いた学生は1人もいなかった。彼らが一番興味を持ったのは、法政大学の上西充子教授による国会答弁のノーカット中継の解説。日本学術会議の任命拒否問題に関して立憲民主党の辻元清美議員や蓮舫議員の質問に対する総理の答弁だが、確かに全く答えになっていない。我々はこのことは既にテレビや新聞で何度も見聞きしているが、ネットで流れるニュースしか知らない学生にとっては新鮮だったようだ。ある学生は「菅首相はコロナ対策が中途半端だと不満はあったが、こんな総理だったとは知らなかった」と書いた。
そもそも映画自体も極めて評判がよかった。アンケートにはこの映画に100点満点で点数をつける欄があったが、平均は
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