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「沈黙は禁」──オリンピック×コロナ=モヤモヤだらけの毎日で

多様性を理解するために必要な「話し合いの技術」

野菜さらだ コラムニスト/言語聴覚士

 もしも、新型コロナウイルス感染症に世界が脅かされていなかったら、今頃、いや正確には去年の今頃、日本中は語義通りオリンピック一色になって毎日放映される各種の試合に見入り、ニュースで報告されるメダルの数に一喜一憂していたことだろう。

 しかし、「当たり前に来る」はずだったその風景は、今年はない。

 7月23日、国民に様々な思いのある中でオリンピックは開幕した。そしてそれからちょうど1週間経った30日には、新型コロナウイルス感染症の感染者数が急拡大する事態を受けて「緊急事態宣言」が東京都・沖縄県に加えて、大阪府、埼玉県、神奈川県、千葉県へと拡大し、期間も8月31日までと延長された。

 「60代以上の感染者数も重症者数も少ない」「若い世代、40代、50代はワクチン接種を」と繰り返し報道されているが、地元自治体のワクチン予約は既に満員。自衛隊の大規模接種会場の予約開始に合わせてインターネットでアクセスしてみるが、30分間「このままお待ちください」の表示が出ているのみで、次に「今回の予約は満員になりました」で終わり。

 「どうしろ、と言うのだ?」という気持ちが沸き起こるのは当たり前だろう。

 8月に入ってすぐの1日。今度は全国知事会が「夏休み中の都道府県境をまたいだ旅行や帰省は原則中止、または延期するように」というメッセージを発する。

 2020年のゴールデンウィーク、夏のお盆、年末年始、今年のゴールデンウィークと、国民はずっと我慢してきている。「今年の夏は、帰れるかも?」、そういう思いで楽しみにしていた人も少なくないはずだ。それが直前のタイミングで「また……」と打ち砕かれる気持ちがするのは当たり前だろう。

 テレビをつければ、NHKの地上波の二つのチャンネル、BSチャンネルはもちろんのこと、民放も複数局がオリンピックを放映している。

 そしてオリンピックが閉幕した翌日9日からは夏の甲子園大会も開かれると報道されている。

 県境をまたいだ旅行は中止、延期してほしいというニュースの後に、このニュースを見れば、またモヤモヤが沸き起こる。「甲子園に集うには、県境をまたぐしかないのでは……」。

 たまたま見ていたNHKニュースで、速報が流れた(7月31日)。

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外枠:「緊急事態宣言……期間来月2日~31日」
速報テロップ:「東京五輪 柔道混合団体で日本銀メダル」
ニュース本体テロップ:「原水爆禁止世界大会……被爆76年」

 この3つの情報が同時に視聴者に示されたのだ。この「どれに」見ている私たちは注目すればいいのだろう。そして、この3つのテロップこそが、多くの国民の揺れ動く心の様を如実に表しているかのように見える。

 「緊急事態宣言……新型コロナウイルス感染拡大を抑えるために、まだまだ我慢しなくてはいけない」
 「オリンピック……選手は頑張っているけれど、こんな状況では心から応援できる気持ちになれない……」
 「被爆76年……そうだ、忘れてはいけない広島・長崎原爆投下の日がくる」

 揺れ動いているのは私だけではない、みんな揺れ動いている、そんな報道が8月2日にあった(「「思いがあまりにも違う」 分断生む東京五輪、医療現場や被災者の声」朝日新聞デジタル)。五輪、医療現場、あちらこちらの被災者の方々……。

 「分断を生む……」。その言葉に、「このままではいけない」と言い得ぬ危機感を持った。


筆者

野菜さらだ

野菜さらだ(やさいさらだ) コラムニスト/言語聴覚士

本名・三田地真実(星槎大学大学院教育学研究科教授) 教員、言語聴覚士として勤務後、渡米。米国オレゴン大学教育学部博士課程修了(Ph.D.)。専門は応用行動分析学・ファシリテーション論。2016年からオンライン会議システムを使ったワークショップや授業を精力的に行っている。著書に『保護者と先生のための応用行動分析入門ハンドブック』など。教育雑誌連載と連動した 「教職いろはがるた」の動画配信中!

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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