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『近松心中物語』会見レポート

元禄と令和のトンネルをつなげていきたい

大原薫 演劇ライター

 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『近松心中物語』制作発表記者会見が行われた。横浜出身の劇作家・秋元松代の名作をKAAT神奈川芸術劇場新監督の長塚圭史による新演出で上演する。長塚、出演の田中哲司、松田龍平、笹本玲奈、石橋静河が登壇した会見の模様をレポートする。

格差社会と言われる今の時代にも雄弁な物語

拡大左から、長塚圭史、笹本玲奈、田中哲司、松田龍平、石橋静河=中村嘉昭 撮影

 『近松心中物語』は秋元松代の傑作戯曲で、近松門左衛門の人形浄瑠璃『冥土の飛脚』をもとに、いくつかの作品を織り交ぜて作られた2組の男女の物語。蜷川幸雄の演出により1979年に帝国劇場で初演されて大ヒットを記録した。これまで数多くのクリエイターや俳優たちがこの作品に取り組んで脚光を集めた伝説的な名作を、KAAT神奈川芸術劇場の新芸術監督に就任した長塚圭史が秋から立ち上げるメインシーズンの幕開けとして自ら演出を担当し、上演する。

 遊女梅川の身請けのために公金に手を出して、共に追われる身となってしまう亀屋忠兵衛と梅川。

 梅川の身請けの金を無心されて勝手に店の金に手をつけ、追われる身となった傘屋与兵衛と、与兵衛に心底惚れ抜いて、共に逃げる女房のお兼。

 元禄時代、境遇の違う二つの恋の情景を描いた本作を、格差が問われる現在にも深く響く普遍的な戯曲と捉え、俳優と共に秋元戯曲の台詞の魅力を紐解きながら上演するという。

 KAAT神奈川芸術劇場で行われた制作発表記者会見では長塚圭史、出演の田中哲司、松田龍平、笹本玲奈、石橋静河が登場し、意気込みを語った。

拡大長塚圭史=中村嘉昭 撮影

――本作を選んだ理由を教えてください。

長塚圭史:まず、秋元松代さんが神奈川県の誇る劇作家であることが一つ。KAAT神奈川芸術劇場で『常陸坊海尊』と言う秋元さんのもう一つの傑作を演出して、秋元さんの簡潔でありながら意味深い台詞の魅力に惹かれました。『近松心中物語』は蜷川さんが演出した絢爛豪華なイメージがあったが、再読したところ、金が物を言う社会の中で行き場がなくなって死を選ぶ梅川忠兵衛と、心中物語に恋をしてしまうお亀と生の執着から逃れられない与兵衛の物語は格差社会と言われる今の時代にも雄弁なのではないかと思いました。

 一目惚れというのは非常に肉体的なもの。そこに色気というか、動物性を感じたんです。若者たちの間に流れる時間は非常に速い。この刹那が一生、永遠だと思うエネルギーも含めて、この作品に惹かれたんです。

拡大田中哲司(左)と笹本玲奈=中村嘉昭 撮影

――出演に当たって意気込みは?

田中哲司(亀屋忠兵衛役):『近松心中物語』の忠兵衛という役は僕にとっては本当にハードルが高い役。心して挑まねばいけないと思います。さっき圭史くんに聞いたら忠兵衛の年齢は20代ということで、僕今55歳なんですけど、『これはやばいぞ』とちょっと感じました(笑)。これから稽古が始まって、みんながどんな世界観や価値観を持ち込むのかが本当に楽しみだし、圭史くんの芸術監督就任第一弾を良い作品にして、お祝いしたいと思います。

松田龍平(傘屋与兵衛役):僕は長塚さんの演出作品は今回で3回目。1回は哲司さんとご一緒させてもらっているので、心強いなと思いながら楽しみにしております。これから稽古を重ねて、ちょっとずつ与兵衛の人柄が出てきたらいいなと思っています。

笹本玲奈(遊女梅川役):私にとって遊女梅川は試練になるだろうなと思っております。和物に挑戦することも、今回共演する方も皆さん初めてで、長塚さんとも初めてご一緒するので、私にとっては初めてのことづくしなんです。先ほど長塚さんから説明を受けて、私が想像していたものとは違って、とても斬新だなと思いました。しっかり皆様についていけば大丈夫だなと心強い気持ちになりました。頑張りたいと思います。

石橋静河(与兵衛の妻・お亀役):ボリュームのある脚本ですが、読み終わった後に刹那というか、『なんて儚いんだ』という気持ちが残りました。お亀がとても愛らしい女性だなと感じたので、最初に持った印象を大事にしながら、奇をてらわずまっすぐに演じられたらと思います。

遊郭で歌う「騒ぎ歌」がスチャダラパーのラップと重なる

――今回の音楽はスチャダラパーが担当されるのですね。

長塚:『近松心中物語』でスチャダラさんってびっくりしませんか(笑)? 蜷川さんのときは森進一さんでしたからね。元禄を舞台にした戯曲ですが、読んでいくと現代に通じるようにトンネルがぐっと開いていくんですね。この劇を今ちゃんと届けようという意識があるんです。そのトンネルをどうつなげようかと思ったときにスチャダラさんのことを思った。この劇は歌から始まります。大阪新町の遊郭でみんなが歌う『騒ぎ歌』が、パーティなどで歌うところから始まったラップと重なったんです。

拡大松田龍平(左)と石橋静河=中村嘉昭 撮影

――笹本さんと石橋さんは長塚さんの演出は初めてとのことですが、経験者の田中さんと松田さんから何かアドバイスは?

田中:長塚さんはなんでも聞き入れてくれるし、やさしいです。やりやすいと思います。

松田:めちゃめちゃ厳しい(笑)。

長塚:そうかな(笑)。

松田:長塚さんが僕に対してピリッと言ってくれるので。いつもありがとうございます。声が小さいってずっと言われる。

長塚:違うんです、龍平くんはめちゃくちゃいい声をしているから、それが聞きたくてね。あははは。

――笹本さんと石橋さんは、それぞれ相手役の田中さん、松田さんにはどんなイメージをお持ちですか?

笹本:田中さんはすごく大きい方だなと思いました。私は背が高いので見上げてしまうことがあまりないので。普段から包容力がおありだなと思います。

石橋:松田さんとは共演は5回目。実は小さい頃から知っているので、頼もしいです。

拡大左から、笹本玲奈、田中哲司、松田龍平、石橋静河=中村嘉昭 撮影

――「一目惚れ」というワードが出てきましたが、何か一目惚れについてのエピソードがあれば教えてください。

田中:身を焦がすような一目惚れはないですね。軽い一目惚れならしょっちゅう。女性、男性、物、景色、料理でもいい。そういう一目惚れは2日に1回くらいはしてるんじゃないですか。

松田:僕も田中さんと同じで、一目惚れの頻度が増えているような気がします。若いときは女性にしか一目惚れしなかったけど、今はおいしそうなご飯とか、道端に咲いている可愛い花を見ちゃうとか。そういう意味では何かいろんな一目惚れをするようになった。

笹本:私はあんまり一目惚れをしない人生だったんです。でも去年、人生で初めてバイクに一目惚れをして、買いました(笑)。250㏄の中型バイクで足つきが良くて、音も良いんです。

石橋:最近した一目惚れは坂口恭平さんのパステル画の画集。本当に美しくて一目惚れして買ってしまいました。心が窮屈になったときに見ています。

秋元戯曲のシンプルな言葉の魅力をお客様に届けたい

――キャストの皆さんがそれぞれの役に共感するところは?

田中:忠兵衛は勤勉な真面目なサラリーマンのようなイメージ。共通点はないけれど、僕が演じるとどこか僕自身がにじみ出ると思うので、頑張って演じたいと思います。一番違いが大きいのは年齢で、圭史くんにも「じじ臭かったら注意してね」と言っています(笑)。

松田:与兵衛は筋を通す人だなという。自分の置かれている状況や、自分が大事にしている人に対する筋は通す。大事にしている人が「心中する」と言うなら死にたくないと思っても「そう言うなら仕方がない」と思う人。でも、与兵衛が本当はどうやって生きていきたいのかは、わからないな……。台詞を入れて芝居をしながら、与兵衛がどういう人か噛みしめていきたいです。

笹本:私も田中さんと同じで、梅川との共通点がまったく見つからないなと思って。梅川の人を気遣うやさしさや儚さ、健気なところは私の課題になると思っています。

石橋:共通点を意識して脚本を読んでいなかったのですが、お亀が「人からどう思われてもいい。自分はこの人が好きだから、人からどう思われても関係ない」と言い切れるのが素敵だなと思います。これからお亀のいいなと思うところをいっぱい見つけていきたいです。あと、与兵衛とお亀は幼馴染で、私も松田さんを子供のころから知っているので、そういう共通点はありますね。

拡大左から、長塚圭史、笹本玲奈、田中哲司、松田龍平、石橋静河=中村嘉昭 撮影

――近松の原作では死んでしまう与兵衛を秋元さんが死なない設定にして元禄と昭和の時代をつないだとのこと。長塚さんが令和の時代にこの作品をつなげるために考えていらっしゃる演出プランは?

長塚:元々の近松の原作ではお亀を後追いして命を絶つ与兵衛を、秋元さんは生かしておいた。このことは非常に秋元さんらしいというか。僕は秋元さんのシンプルな言葉の魅力がお客様にきちんと届いたらいいなというふうに思っています。そうすれば、生を選ぶ与兵衛がより身近に迫ってくるのではないかなと。この戯曲が書かれた1979年から40年以上たって、イメージが少し遠ざかっているところがある。元禄時代の彼らが身近に感じられるように、肉体に落としていける方法を稽古場で積み上げていけたらと思っています。

◆公演情報◆
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
『近松心中物語』
神奈川:2021年9月4日(土)~9月20日(月) KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
北九州:2021年9月25日(土)~9月 26日(日) 北九州芸術劇場 中劇場
豊橋:2021年10月1日(金)~10月3日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
兵庫:2021年10月8日(金)~10月10日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
枚方:2021年10月13日(水) 枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール
松本:2021年10月16日(土) まつもと市民芸術館 主ホール
公式ホームページ
[スタッフ]
作:秋元松代
演出:長塚圭史
音楽:スチャダラパー
[出演]
田中哲司/松田龍平、笹本玲奈/石橋静河
綾田俊樹、石橋亜希子、山口雅義、清水葉月、章平、青山美郷、
辻本耕志、益山寛司、延増静美、松田洋治、蔵下穂波
藤戸野絵、福長里恩/藤野蒼生(子役 Wキャスト)
朝海ひかる、石倉三郎

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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